働く女性の皆さんこんにちは。毎回大好評の、女性が活躍するベンチャー企業の社長インタビュー。
今回のゲストは、株式会社Snip(スニップ)の清水幸樹社長。「僕、全然すごくないんですよ。社長インタビューより、社員インタビューに変えてくれません?」と冒頭からおっしゃる謙虚でお茶目な方です。
Snipは大阪の都島区を中心に、8店舗を展開する美容室。女性社員さんも多く、中には”ママスタッフだけ”で運営する「Snip garden」というお店もあります。「めちゃめちゃヤバい美容室」を目指し、「社員さんに任せる経営スタイル」で業界問わず注目が集まるSnipの創業者、清水社長の本音に迫ります!
1.「任せる経営」に舵をきったきっかけとは?
ー高野:本日はよろしくお願いします。美容業界のみならず、様々な業界の方々が会社見学に来られるSnipさん、その創業者である清水社長にインタビューできるのを、ずっと楽しみにしておりました。
ー清水:いやいや、冒頭にも言いましたが、僕は何もしていません。社員さんみんなが頑張ってくれているからSnipは成り立っています。だから社員インタビューに今からでも切り替えて欲しいくらい…。
ー高野:いや、そうおっしゃらずに…(笑)そもそも清水社長は、なぜ美容師になりたいと思われたのですか?
ー清水:僕は飲食業を営む商売人の家庭で育ったので、会社勤めをするという感覚はあまりありませんでした。高校の時に「自分でお店がもてる商売をしたい!」と思い色々考えた結果、美容師になろうと決めました。
ー高野:では、美容学校を卒業されて美容院に就職された時には、独立を見据えておられたのですね。その後2003年にSnipを設立されましたが、いつ頃から現在のような「任せる経営」を目指すようになられたのですか?
ー清水:創業当初は「お店をたくさん持ちたい、10店舗くらいになりたい」と思っていましたがの中身まで深くは考えていませんでした。「社員さん自らが考えて動く」会社にしようと思ったきっかけは、今から5年ほど前のこと。これからの美容業界が大きく変わると感じたからです。
以前の美容業界は「こうすれば流行る」「こうすればお客様が来てくださる」という一つの成功事例があり、みなこぞってそのやり方を真似て成長してきた業界でした。
例えばカリスマ美容師が「こういうスタイルが流行る!」といえばそちらの方向に行きましたし、「美容院でもネイルを!」となれば多くの美容院がネイルもやりだしたり…。ただそうやって店舗が増えていくことで当然業界は飽和状態になり、今まで増えていた美容院店舗数が一気に減りだしたのが5年前でした。
今までも感じていましたがその時ばかりは「ここが時代の節目だ。今までのように先輩企業や誰かの真似をしていてもうまくいかなくなる」と強く感じました。
その時にたまたま出会った本に「任せる経営」という内容が書かれていて「これや!」と思い、そこから一気に方向転換したんです。
ー高野:清水社長は以前より「任せる経営」をされているイメージがありましたが、5年前までは違ったのですか?
ー清水:そうなんです。自分では「僕は結構社員さんに任せている」と思っていましたが、僕のやり方は任せるとは言えないと本に書いてあって、衝撃を受けました。以前の僕は「Aという案件がある。こういう目標と目的で、こんなメンバーで、◯月からプロジェクトを組んでやっていきたいんやけど、君たちやってくれないか?後は任せたで!」と言って、任せている気でいました。つまり、やることは予め決まっていて、その上であとはやってくださいという形ですね。
でも「それは任せているうちに入らない」ということをその本で知りました。
本当の意味で任せるというのは「Aという案件があっても、それをやるかやらないかの決断から、本人たちの意思に委ねる」ということだと気づきました。
ー高野:なるほど…!やるかやらないか、それすら任せていくとは…すごいことですよね…。
ー清水:また、Snip独自の路線を作っていきたいという気持ちもありました。たとえ業界全体が『NO』と言っても、自分たちが良いと思う道を僕達は突き進みたい!
これだけ多くの美容室がある中でSnipにしかできないことをしたいと思ったんですね。それを「めちゃめちゃヤバい会社」と、極端ではありますがわかりやすい表現にしてみました。
ー高野:その方向転換のことを伝えた時の社員さんの反応は、いかがでしたか?
ー清水:戸惑いもあったかもしれませんが「面白そうですね!やりましょう!」という反応でした。ですから、思い切って舵をきることができました。
2.社長にとっての良い会社。社員さんにとっての良い会社。
ー高野:世間の常識や、世の中の大きな流れが、無意識のうちに自分を縛っていることはよくありますね。
ー清水:そうですね。僕も以前は「いい会社を作らないといけない」と思っていました。経営計画書をしっかり作って、目標を立ててPDCAをまわし、必ず目標達成をする。社員さんは礼儀正しく、挨拶もしっかりできるとか。でも、5年前にふと思いました。全ては「清水さん、いい会社を作っていますね。」と周囲に思われたいがための、自己満足に過ぎなかったと。でもそんなこと、社員さんからすれば「知らんやん」という話ですよね。
以前は採用でも、その人達がどういう思いでうちに入ってきたのか、どうなりたいと思っているかより「まじめで素直な人を採用しよう」としていました。でも現在は、「人は本来、自由にのびのび自分の考えでやりたいものだ」と思うので、目の前の人の思いや気持ちを大切にするようになりました。
ー高野:確かに、色々な意見はあると思いますが、自分で考えて行動できる喜びは、仕事をする上でとても大切ですよね。私も前職で営業をしていたとき、「自分で目標も、訪問先も、やり方も決める…」という自分に裁量が与えられた環境に醍醐味を感じていました。
ー清水:言われたことをただやるなんて、きっと面白く無いですよね。会社から決められたことをやって成果が出ても、それを決めた社長や上司が素晴らしいという評価になります。そうではなく「自分たちが考えて動いて結果を出したから、それが自分たちの成果になる!」という方が圧倒的に面白いと思います。だから、できるだけ社員さんに光があたるようにしたい。
ー高野:確かに、清水社長のfacebookの投稿は社員さんについて書いておられるものがとても多いですよね。素敵な社員さんがたくさんおられて、そんな社員さんが可愛くて仕方がない様子が伝わってきます。
ー清水:お恥ずかしいですが、本当に自慢の社員さんたちばかりです。社長は、普通にやっているだけで「すごい」と言われることが多いです。「お店を立ち上げてすごい」「こういう経営手法がすごい」と。でもそれを実際に実行して形にしているのは、現場で頑張る社員さんなんですね。みなのおかげでSnipは成り立っているから、もっともっと社員さんを主人公にしていきたい。ほんと僕、何もしてないですから。
ー高野:素敵です!とはいえ「めちゃめちゃヤバい」「任せる経営」を現場で実践するとなった時、社員さんたちに戸惑いはなかったのですか?
ー清水:最初はあったみたいですね。以前の僕は店長に、毎日アドバイスをしていました。「今日はこんなことがありました」という報告を受けたら「そういう場合はな、こうするんやで、あぁするんやで」と逐一伝えていたんです。
でもそれは、結果的に本人のプラスにはなっていませんでした。自分で考えるより、社長がOKという答えを探すようになり、無意識のうちに「勝手にやったらあかん」というメッセージを僕は彼に伝えていました。
ところが一切教えないようにしてから、彼も含め店長たちが急激に成長し、たくましくなりました。Snipの方向性や理念をものすごく深く理解し、僕が教えていた頃とは桁違いの成長が見られるようになりました。
「こういうことも自分たちで考えて決めてやっていいんだ」という気づきが「何か起きれば自分たちで考えて解決する」という思考になり、乗り越えていく度に自信になっている様子は、そばで見ていて驚くほどです。
「答えはお客様が持っている」ということさえ忘れなければ、何をやってもいい。
問題解決能力のセミナーに行ったとしても、すぐには問題解決能力はあがりませんが、「問題解決していいよ」というだけで問題解決能力はあがります、ほんとに。
ー高野:日々の仕事の中に、成長できる、勉強できる要素はたくさんありますね。私は研修等している立場ですが、研修にお金と時間を使って行く前に、現場でやれることはたくさんあると感じます。
ー清水:はい、本当にその通りだと思いますね。
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3.「売上目標」すらなくした思い切りと、その結果とは…?
(※画像は、Mjuk店の岡麻帆さん。笑顔がとっても素敵です)
ー清水:「任せる」という部分では、売上目標や数値目標もなくしました。目標があったほうがいいのか、どのくらいの目標にしたらいいか、そこから自分で考えてくださいという風にしました。
ー高野:売上目標すら決めないというのは、経営的にはとても怖いですよね。なかなかできることではないと思います。
ー清水:そうですね。でもそこは社員さんを任せて信頼することが大切だと思います。ある年、来期の目標をある社員さんに立ててもらったところ、昨対を下回る目標数値がありました。以前の僕であれば「ありえない!どんなことがあっても昨対アップせないかん!」と伝えていたと思います。でもそれを言ってしまうと「社長がOKと言う目標数字を作らないといけない」というメッセージを僕が案に伝えてしまうことになる。だからあえて何も言いませんでした。
1年後、やはりその年は会社の売上が低かったのですが、その経験は僕がアドバイスするより何倍も、本人にとっての気づきになったようでした。結果次の年からは、その社員さんは、昨対を上回る目標数値を毎年設定するようになりました。
何でも経験しないと分からない。失敗することもなく最初からできる人なんていません。「失敗してもいいし、失敗の中にこそ成長がある」と思います。
ー高野:なるほど!勉強になります!以前Snipさんでは、売上目標も大切だけど、それよりも大切にされている判断軸があると聞いたことがあるのですが、それは何でしょうか?
ー清水:僕たちがもっとも大切にしている判断軸は『成長』です。失敗しても、それによって「成長」していればOKです。逆にいくらうまくいっていても、そこに成長がなければ、やり方を変えることも必要だと思っています。社員さんの幸せが、お客様にとっての幸せに繋がりますからね。
そうそう、以前内定者が集まった場で若手社員さんがこんなことを言ってくれました。
「自分が楽しんで働く姿を見せることが、一番の親孝行になると思う。一生懸命愛情たっぷりに育ててきた我が子が、辛そうに働いている姿を見るなんて親としては絶対に辛い。私たちがいきいき働く、楽しそうに働く姿が、私たちができる両親への一番の親孝行なんだよ」と。
感激しました。まだ子どももいない若手社員なのに、こんなことが言えるのかと、聞いていて泣きそうになりました。いや、泣きました(笑)素晴らしい社員さんに囲まれて、僕は本当に幸せものです。
僕は今、実務的なことはしておらず、全て副社長や社員さんに任せています。「社長は仕事もしないし、決めないし、指示もしない。私たちばかりにやらせておいて…!」と社員さんから思われるのかな…と不安に思ったりもしましたが、自分が頑張らないことで、みながよく頑張っていることが分かるようになりました(笑)
みんな、本当に一生懸命頑張っています。それぞれの立場で、事情を抱えて、成長の速度は違ってもみんなみんな頑張っている。そう思うと社員さんみんなが、更に愛おしい存在に思えてきますよね。
4.ママサロン”Snip garden”誕生のきっかけと今後について
ー高野:Snipには、ママスタッフさんだけのサロン「Snip garden」がありますが、どのようにしてこのサロンは誕生したのですか?
ー清水:「作ろう!」と思って作ったというより、自然な流れで立ち上がりました。Snipの移転の方法は「既存の小さいお店を、大きめのお店に変えて移転していく」というやどかり方式です。今から7年ほど前に「城東区の店舗を閉めて、大きい店に移転しよう」という計画がありましたが「内装もまだ使えるし、閉めるのももったいない」と思いました。当時Snipにはママスタッフが何人かいたので「ここでママサロンやってみる?」と言うと、口々に「やりたい!」と言ってくれたので、ママサロンとしてオープンしました。
ー高野:私もgardenさんで、何回か子ども連れで髪の毛を切っていただきました。子どもを膝に載せたまま髪の毛を切ったりシャンプーができて「わー斬新!こんなこと可能なんだー!」と驚きました。また皆さんママさんだから、子どもをあやすのもお上手で、ぐずることもわかってくださるので、肩身の狭い思いもなく、快適でした。
ー清水:ありがとうございます。子どもができると、美容室に一緒に行きづらくなりますよね。誰かに預けて行くのもまた大変です。だからこそ気兼ねなく一緒に来ていただけて、その時にスタッフと子育て話なんかもできて、髪を切るだけではなく息抜きになったり元気になっていただけたら、それは本当に素敵なことです。来店頂くたびに大きくなられるお子さんの成長を見るのもスタッフの楽しみの一つなんですよ。まるで親戚のおばちゃんのような気持ちになっているんじゃないかな(笑)
ー高野:ただ、サービス業で「業績」と「柔軟な働き方」を両立させるというのは、並大抵のことではないと思います。出社することが大前提なので、ITツールで在宅ワークができるから…というわけにはいかないですもんね。私も企業の女性活躍をサポートさせて頂いていますが、サービス業の方々は試行錯誤でなかなか成功事例がないのが現状です。
ー清水:そうですね。当社も、まだまだこれからです。本人たちも知恵を絞りながら、本当に日々よく頑張ってくれています。僕も妻がはやくに亡くなり、父子家庭で2人の子どもを育ててきましたが「家事や育児をしながら仕事するってこんなに大変なんか…」と痛感しました。その経験から、スタッフの子どもが急に発熱した時、応援が必要な時に僕ができることは少しでも協力したいと思っています。
実は全国的に「ママさん美容師」は結構おられるんですよ。Snipが特別珍しいというわけではありません。でも、よくよく話を聞いてみるとお子さんの面倒は完全におじいちゃんおばあちゃんに任せて、他の独身美容師と同じように働いて成績を出しておられる方も多いです。
それも一つの形ですし、確かにすごいですが『Snipらしくはない』ですね。実際そんなスーパーマンみたいなことできる人は少ないですし。
それよりも、驚異的な数字でなくても誰もが頑張ればできる数字で、みなが働ける環境を作るほうが、Snipらしい。一人のスタープレーヤーを作るよりも、みなが主人公として輝いて欲しいと思っています。gardenはこれから、まだまだ成長していくと思いますし、僕自身もすごく楽しみにしています。
ー高野:素敵です!まさに、「めちゃめちゃヤバい」ですね!男女問わずかもしれませんが、特に女性の生き方には「こうあるべき」という世間の常識がまだまだ根強く存在すると思います。「女性はこうあるべき」「母になれば3歳まではそばにいてあげるべき」世間のべきべきに縛られて、苦しんでいる女性も多い。
だからその「べき」から解放されて”私らしく”働く女性がもっと増えたら嬉しいし、私もそうありたいと思っています。Snipさんは会社全体を通して”らしさ”を貫く雰囲気なので、本当に素敵ですよね。
ー清水:ありがとうございます。急激でなくてもいいから、時間をかけて出来上がればいいなと思っています。今ね、僕はすごく楽しくて、社員のみなが楽しそうにしてることが本当に嬉しいんです。
先日会議で僕が「こういうのあるんやけど、面白いと思わん!?」って言ってみたんです。普通社長が言ったらみな気を遣って「いいと思います」ってお世辞でも言いますよね。でもみんな「えーそれはいけてないです」とか「やめときましょう」と普通に言ってくるんですよ。「わーめちゃめちゃヤバいー最高!」と思いました(笑)Snipはこんなに存在感の薄い社長も珍しいというくらい、社員さんが活躍してくれているます。
ー高野:Snipさんはなかなか形容しがたい会社だと思うのですが、ずばりどんな会社ですか?
ー清水:不思議な会社ですよね、会社っぽくないし、サークルでもない。僕はみんなに「僕は誰も幸せにしないよ」と言っています。「幸せというのは、誰かに与えてもらうものではない。自分で幸せと感じられる心を養うことが大事であり、幸せをつかめる環境は作るので、あとは自分でやってください」と。一見冷たく聞こえるかもしれませんが、この環境こそが社員さんの幸せに繋がると思っています。…といったところで、う〜んどんな会社って一言では形容しがたいですね…。
ー高野:オーケストラみたいな感じでしょうか?バイオリン、トランペット、ティンパニーといろいろな楽器があって、それぞれが主役で音を奏でることもできるし、全員で演奏したらそれもまた素晴らしいものができる。指揮者もあるときは副社長だったり、ある時は新入社員さんだったりして…。
ー清水:あーなるほど。そういう意味では、「一人ひとりが主役になれる会社」だとは思いますね。「完璧な会社ならなくてもいいやん、できてなくていいしグレーでもいいやん、でもそこにこそ自分たちの伸びしろがある!」というのがSnipです。これからもみんなで「めちゃめちゃヤバい」会社の道を、とことん突き進んでいきますよ!あ、次お会いする時までにしっくり来る形容詞を探しておきますね(笑)
ー高野:よろしくお願いいたします(笑)本日は本当にありがとうございました。清水社長とお話していて、すごくパワーを頂きました。
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「めちゃめちゃヤバい」美容室と聞くと、奇をてらった破天荒な社長が経営されているのかと思いきや、清水社長のお話には一貫して「人として当たり前のことを地道にやり続ける」という姿勢があらわれていました。お店にお邪魔してみると、社員さんが仕事を楽しみ、充実されている様子が肌で伝わってくる。理屈ではなく、”人が人らしく働ける組織の姿”がSnipにはありました。「めちゃめちゃヤバい」道を突き進むSnipさんや清水社長から、今後も目が離せません!
株式会社Snipについて
設立:2003年4月
事業内容:都島区、城東区、北区、中崎町、だいどう豊里、北巽に8店舗を展開する美容室
本社:〒530-0031 大阪市北区菅栄町2-18
代表者:清水 幸樹(しみず こうき)
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