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編集長が突撃取材~大阪弁護士会男女共同参画推進本部 女性弁護士が働く現場に迫る~

*(前列左から) 大阪弁護士会男女共同参画推進本部委員・室谷光一郎、大阪弁護士会副会長・島尾恵理、(後列左から)上記本部委員・飯島奈絵、同委員・八山真由子

働く女性の皆さんこんにちは。
本日は、日本公認会計士協会近畿会 女性会計士委員会さんからご紹介頂き、大阪弁護士会男女共同参画推進本部の皆さんにお話を伺いました。

大阪弁護士会 男女共同参画推進本部とは?

ー高野:本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、「大阪弁護士会男女共同参画推進本部」とはどのような組織なのですか?

ー飯島:まず大枠から言いますと、弁護士は、自分で法律事務所を経営したり、弁護士法人や経営者弁護士(ボス弁)の経営する事務所に勤務したり、社内弁護士として会社に勤務したりしているわけですが、弁護士法上、弁護士会に登録しなければ、弁護士として業務をすることが許されません。弁護士は、事務所所在地の弁護士会を通じ、日本弁護士連合会(日弁連)に登録しており、私たちは大阪の事務所に勤務しているため、大阪弁護士会に所属し、その中の「男女共同参画推進本部」で活動をしています。

ー島尾:大阪弁護士会には人権擁護委員会、消費者保護委員会、交通事故委員会、男女共同参画推進本部等、様々な委員会があります。男女共同参画推進本部は、女性弁護士だけでなく男性弁護士も働きやすい環境を作るために、弁護士会に提言する役割を持っています。

ー高野:なるほど。男女共同参画推進本部は随分前から活動されている委員会なのですか?

ー島尾:いえ、比較的新しい方です。大阪弁護士会は、30年以上前から女性差別について取り組んではきましたが、男女共同参画推進本部が委員会として誕生したのは2008年です。まず2007年に日弁連に男女共同参画推進本部ができ、翌年に大阪弁護士会にも委員会が出来ました。

ー飯島:男女共同参画推進本部の中には、会員のワーク・ライフ・バランス向上のために様々な企画等を立ち上げている「ワーク・ライフ・バランスチーム」もあります。子育て世代の、八山さんや吉田さんのような方々がメンバーとして頑張ってくださっています。

ー吉田:私も今、子育てしながら働いていますが、女性弁護士の中には自分が「事務所初の女性弁護士」や「初の妊娠スタッフ」という方が少なくありません。「ワーク・ライフ・バランスチーム」の会議では子育て中の弁護士が集まるので、会議の本題以外に、仕事と子育ての両立に関する情報交換の場にもなっていて、和気藹々と活動しています。

ー八山:保育所のお迎えがあり、仕事終わりに集まることは難しいので、ランチの時間を利用しています。お昼ご飯を食べながら行うので効率がよく、また、仕事と育児の両立に、皆、頑張っていることを肌で感じられて大変良い機会になっています。

ー飯島:皆さん、事務所での自分の業務の合間に弁護士会の委員会に出席するので、時間の有効活用がとても大事なんです。私が子育て真っ只中だった頃は、委員会の活動はほぼ夜だったので、子どもが10歳になるまで私は一度も委員会に参加したことがありませんでした。ランチ時間に行うのは大変良いことだと思います。

ー島尾:子育て中の弁護士を中心とするメーリングリストも作成し、その中でも情報交換をしていますが、既に多くの方が登録して下さっています。メーリングリスト上の交流だけでなく、実際に集まって各種オフ会も開催しており、「保活オフ会」「もうすぐ小学生になる子を持つ親のオフ会」というものもあるんですよ。
男女共同参画推進本部では、横の繋がりを通して事例を集め、業界全体に対してより良い働きかけをしていきたいと考えています。

男女共同参画推進本部の成果について

ー高野:男女共同参画推進本部が取り組まれたことで、何か目に見えて変わった事例もあるのでしょうか?

ー島尾:一番分かりやすいのは、「産休・育休期間中は、日弁連及び弁護士会に支払う会費が免除になったこと」です。会費は月約5万円、年間約60万円にもなります。出産直後は思うように働けないにも関わらず、月5万円の会費を払い続けるのは大変だという声を以前からよく聞いていました。

ー高野:年間60万円。結構高額なのですね。そのような会費は、勤務先の弁護士事務所が支払うのではなく、個人が負担するものなのですか?

ー室谷:実は弁護士は、ほぼ全員が個人事業主なんです。事務所に勤務する弁護士といっても、事務所はあくまで「軒」であって、一人ひとりが集まり協働でグループを組んでいるイメージです。もちろん、事務所ごとに労働条件も異なります。

ー飯島:弁護士は個人事業主であり、監督官庁もありません。弁護士自治の組織として弁護士会があり、弁護士は全員登録する必要があるのですね。

ー高野:初めて知りました。税理士さん、社労士さんとはまた違うのですね。「自分の身は自分で守らないといけない」シビアな世界ですね。

ー八山:はい。ですから、産休育休中に会費が免除されるのは大変有難いことです。安心して産休・育休を取得することができました。

ー吉田:一人ひとりが個人事業主で、法定の産休・育休というものがないため、先程お伝えしたような「横の繋がりを通しての情報交換」はとても意味があることなんです。

ー高野:なるほど。

ー島尾:また、他に具体的な成果としては「弁護士のための出産・育児・介護ハンドブック作成」だと思います。このハンドブックの中には、妊娠がわかったらまず何をするか、保活について、その他の事例等、様々なことが載っています。上司に交渉するためのツールとして、現場の弁護士の皆さんに活用いただいたり、弁護士事務所のトップの方には、より良い事務所運営に役立てて欲しいという思いで作成しました。

ー高野:拝見しましたがこれはすごいですね!保育園のポイント制について等、一般企業で働く人たちも知りたい情報が掲載されています。ただ、このように今までのやり方を変え改革しようとすると、反発が起こることもあると思うのですが、いかがだったですか?

ー島尾:一部そのような声もあったかもしれませんが、時代の流れを受けて比較的前向きに改革していけていると思います。

■次のページへ>>>弁護士の皆さんの両立の様子とは・・・

 

子育と弁護士業の両立について

ー高野:全体における女性弁護士の割合は、どれくらいなのでしょうか?

ー八山:2017年現在で18%程度にとどまります。司法制度改革によって司法試験の合格者が増え、若手弁護士の割合が増えました。弁護士全体における女性の割合も以前と比べて微増しているのですが、実は新規登録弁護士における女性の割合は近年減少しているんです。

ー島尾:司法試験合格者における女性の割合は一時期30%近くまで増えたのですが、現在は20%程度です。ですので「女性弁護士がもっと増えるといいね」ということで、11月23日に女子中高生と親御さん対象に「来たれ、リーガル女子!~女性の裁判官・検察官・弁護士の仕事と働き方って どんなんかな~」というシンポジウムを開催しました。
遠くは九州の生徒さんも含め、223名もの方にご参加頂きました。

ー高野:それは素敵なシンポジウムですね!女性弁護士が少ないのは、出産を期に弁護士を辞める方が多いからなのでしょうか?

ー島尾:いえ、出産を期に辞める方は少ないと思います。

ー飯島:私も子育てをしながら弁護士をしてきましたが、仕事自体はやりがいがあるので、「弁護士を辞めたい」とは思いませんでした。ただ、働ける時間が限られることに対するもどかしさとは常に戦っていました。

ー八山:私も、弁護士として働き始めて割と早い段階で出産しましたが、仕事を辞めようと思ったことは一度もありません。ただ、「自分が同期と比べて遅れをとっているのでは」という葛藤があります。スタート地点は同じだったはずなのに、出産や育児で業務量を減らさざるを得ない自分と、そうでない人とでは、経験値に差が生まれてしまうのではと焦りを感じてしまいます。

ー吉田:私も、弁護士の仕事にはやりがいを感じています。ただ、弁護士の仕事は有事対応がメイン。一方で子育ても、急な対応が必要になることも多いので、公私ともに有事対応を迫られるのは大変ですね。
また、家に帰って子どもの世話をしている時に仕事のことが頭を離れないこともあり。どちらも大切なことなので、狭間で葛藤することはあります。

ー室谷:弁護士の仕事はやりがいがあるからこそ、どうしてもワーカホリックになってしまう傾向が高いように思います。盆正月であっても、依頼者から連絡が来れば直ぐに対応するように致します。僕も子どもができる前は、土日も働くことが当然だと思っていました。ボスがそういうマインドである場合が多いですね。

ー飯島:一方で、自分が母親になったからこそ分かることや仕事に活きた部分もたくさんありますよね。離婚事件や、中でも親権の取り合い等、母親である自分が、事務所のどの弁護士よりも適任であるとの自負があります。

ー吉田:私は子育てを通じて、挫折をたくさん味わいました。今までは、自分の努力次第でなんとかなると思っていましたが、子育てはそうはいきません。子育ての中で、悩んだり模索したりしてきたことは、大変良い経験になりました。

ー八山:確かに、子育てをしていると思うようにいかないことばかりで、メンタルが相当鍛えられますよね(笑)またクライアントに「先生もお子さんがおられるのですね」と安心していただけることも多く、クライアントの悩みにも共感して寄り添うことができるので、その点でも仕事にも活きていると思います。

業界の課題と変えるべきこと

ー高野:現在働き方改革に動き出す企業は増えていますが、弁護士事務所でもそのような動きはあるのでしょうか?

ー飯島:一般企業であれば「働き方改革に取り組むことで、残業代も削減されメンタル不調も減って生産性が上がる」といったメリットが分かりやすいと思います。ですが、弁護士の多くは冒頭で申し上げたように社員ではなく個人事業主で、残業代という概念もないので、弁護士事務所での改革の意義やメリットをトップに実感して頂くことが難しいですね。

ー高野:先ほど「弁護士の仕事は有事だ」というお話がありましたが、24時間対応でき土日出勤可能な方が欲しいトップの方は多いでしょうね。

ー八山:長時間労働が当然とされる風潮があることで、育児に積極的に参加したいと思っている男性弁護士も十分にその希望を叶えることが現状難しいという弊害もありますね。男女問わず、育児中の弁護士が各自ワーク・ライフ・バランス向上を模索している状況です。

ー吉田:育休復帰後は、担当案件の分量には配慮して頂いているので大変有難いのですが、長時間働けないことがハンデと感じることもあり、以前のように思う存分働けないことをもどかしく感じます。世の中の変化が激しくなり、法改正も頻繁ですので、弁護士がよりよいリーガルサービスを提供するために、新しい知識を学ぶ時間を確保することが大切だと思います。そのために、普段の業務において、ITをもっと活用し、タスク管理の仕方や担当弁護士間のチームワークを向上させる等して、業務の質や依頼者の満足を保ちつつ、学びの時間を含めた「ライフ」を充実させることが必要だという考えが広がればいいなと思います。そうなれば、育児中や介護中の弁護士の活躍の場ももっと広がると思います。

ー高野:普段の業務の中で、見直せるところは多々ありますよね。IT化でいつでもどこでも仕事が出来るようにしたり、効率化をはかる余地もあるはずですね。

ー島尾:私はどちらかというと、休みをしっかりとって働いてきたほうだと思います。「土日は極力休む。なるべく仕事を持ち帰らない。週末はリフレッシュする。」と決めていました。私が弁護士登録してすぐに就職した事務所も、ボスにメリハリある働き方への理解がありました。

ー高野:やはりどんな組織もトップの方の考え方で決まりますよね。ただ今後は、育児だけではなく介護問題も出てきますので、男女問わず全員が働き方や意識を変えていかなければならないと思います。

ー飯島:そうですよね。実は、弁護士会で、仕事と介護の両立を図るべく、介護施設の選び方等の研修を実施しているのですが、毎回参加者も多く、皆さんの関心は非常に高いです。育児よりも介護のほうが自分事として捉える人が多いですね。このあたりからも、弁護士業界に働きかけをしていきたいと思っています。

ー高野:業界は違っても「意識」「長時間労働」など働く女性が悩むことには共通点が多々あると感じました。私たちの一歩が、周囲を少しずつ変えいきますし、大きく業界に働きかけできる男女共同参画推進本部の役割は大変大きいと思いました。毎週水曜日に、大阪弁護士会館で、女性弁護士による女性のための法律相談も実施されているとのことですので、ぜひ次回は引き続き、そのあたりのお話をお聞かせください。
本日は有難うございました。