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20年後の社会と働き方改革~vol.6(最終回)雇用のこれまでとこれから~

働く女性の皆さんこんにちは。「転石 ビジネスサークル」代表の小野 曜(よう)です。

昨年1月から「20年後の社会と働き方改革」と題して、20年後の社会、その社会での働き方について検討してきました。シリーズ3回目からは20~40代の各年代について特徴と20年後に働くためにどうするかを検討してきました。今回はそのシリーズの最終回として、加齢について述べながら、人口が減少しヒトの寿命が長くなる少子高齢社会に適した雇用・働き方について考えたいと思います。

老化への抵抗と受容

私はいわゆる団塊ジュニア世代に属し、40年以上生きてきました。物心ついたのは約30年前、その頃にはすでに日本は老いを敬うより若いことに価値があると考える社会でした。

そんな社会の中で私が大学に通っていた20代前半頃は2~3歳年下の大学生を相手に、20代後半の社会人3,4年生の頃は20代半ばの新入社員を相手に「若いね。私は(あなたたちより)年取っている」と言っていました。
そして30代に入ると、とうとう体力が落ちたことも痛感するようになり、この先、老いていくことから逃れられないのだと思ったものです。

このように私は20代の前半から老いることに過敏に反応してきたのですが、過敏な反応の裏には「老い」を厭う気持ちがありました。このように老いを嫌い、「老いたくない」と思うのは多くの人が持つ感情ではないかと思います。

そんな私でも40歳を過ぎると、老いることに慣れて抵抗感が薄れる一方、20~30代の頃にはわからなかったことがわかるようになったことに気付いて、年を重ねることも悪くはないのだと思うようになりました。

40代になってわかるようになった思うことの一つは、20~30年という単位で社会の変化を把握できるようになったことです。もう一つは、自分は自分だと開き直れる、ありのままの自分を受け入れられるようになってきたことだと私は感じています。

40代になればありのままの自分を客観視できるようになったことについては、加藤俊徳氏という脳科学者が「0~30歳までが脳の準備期間で、31~50歳が『自分はこういう人間だ』という理解ができるようになる『個人脳』の形成期」だと説明しておられます。※参照「脳を刺激することで、第2の人生が豊かになる

脳の老化・発達と仕事能力

以前は大人の脳は成長しないと考えられていたのですが2000年頃から大人の脳も発達・成長するという研究成果が相次ぎ、いまでは大人の脳も成長するとの考えが有力です。前述の加藤先生も40~50代に脳の劣化が始まるものの、脳を使うと脳は発達成長すると説明しておられます。

ただし注意すべきは「40~50代で脳の劣化は始まる」のであり、「脳の劣化を防ぎ、成長させる」ためには脳を使う必要がある点です。加藤先生は、30代後半以降、専門分化された仕事をこなすだけでは脳がマンネリ化して老化していくため、新しいことにチャレンジすることで脳に刺激を与えることが必要だと説いておられます。
※参照「働き盛りの脳を『劣化』から守る! 30代からの脳の育て方

前回、紹介した糸井重里氏のコラムにもある通り、30代後半から40代というのは、誰にも指図されずにできる仕事がある、何らかの分野のプロフェッショナルとしての頂点を極める年代です。

また社歴が20年を超えるようなある程度、安定した企業であれば、経営に携わる幹部候補となるのか、現場で特定の業務を担当するいわゆるプレイヤーに留まるのかの道が分かれるのは40代以降になります。

経営幹部、つまり管理職にはプレイヤーとは異なる能力が求められるため、幹部候補になれば新たなチャレンジが必要になります。したがって幹部候補生になれば脳は刺激を受けて成長し、新たな職能を身に着けることになるのでそれに見合うよう昇給するのも頷けます。

一方で40代以降、幹部候補生にならず従来と同じ仕事を続ければ脳はマンネリ化して老化していき、仕事能力は低下していくと考えられます。しかし年功序列型の賃金体系では40代以降、ほぼ一律に賃金が上昇します。

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これまでの雇用慣行~終身雇用&年功賃金について

このように終身雇用を前提として長く勤めるほど賃金が上がる雇用慣行は、高い経済成長が続き高齢者より若者が多い環境で発生したものです。経済成長率が高ければ、企業がコストをかけて教育してもその教育コストは回収しやすいので、学校を出たばかりの半人前の人を採用して育てることは人材を確保する良い方法です。

ただし一人前に育てた後に退職されると投資がふいになるため、途中で退職されないようにする必要があります。そこで定年までの雇用を保障しながら長く勤めるほど給与が上がるようにして、退職時の給与をベースに計算される退職金の額が定年で退職する場合に最大となるようにしたのです。

この雇用慣行は、賃金が安い若者が多く賃金が高い中高年が少ない人口ボーナス期には労使双方にメリットがあったものの、人口減少社会では企業負担は重くなります。

特に1990年代後半以降、情報処理技術(IT)などの技術やスキルが急激に変化する中で、企業内で訓練を受けた内部人材より外部人材の方が高い能力を持つ場合も多くなっています。このため企業は、長く勤め賃金が高くなった中高年を雇い続けたいとは考えなくなってきています。

実際、この20年近く、長く勤めても賃金が上がりにくくなってきており、特にこの10年では30代後半から50代の社員の賃金上昇が抑えられていることが示されています。

また50代にもなれば一般的には気力や体力が低下し若い人に比べて教育効果は低くなります。このため、とりわけ低成長下では投資回収も難しいため中高年社員にまで教育コストをかける余裕はなくなります。こうして40代以降、経営幹部となるひと握りを除く多くの中高年社員はこれまでの仕事の延長上にある業務を続けたり、特別なスキルがなくてもできる業務に甘んじたりすることになります。

それでも特に大企業では中高年社員は市場価値を上回る年功賃金を得ているため、定年まで会社に留まろうとします。こうして定年まで会社にとどまった人は60代で定年退職した後、働く場を見つけられないことも多く、年齢別の失業率を国際比較すると、日本では60代の失業率が他国に比べて高くなっているそうです。

これからは多くの人が60代以降も働き続けることが求められ、70歳や75歳でも働くためには40歳以降、社外に出ても通用するスキル・キャリアを自ら求めなければならない時代が来ています。しかしこうした危機感を持って行動する人はまだ多数派ではありません。

このように危機が迫っていても周りの人が逃げようとしなければ周囲に同調して危機から逃れる行動を取ろうとしないのは人間に「正常性バイアス」「認知バイアス」などと呼ばれる認知のゆがみがあるためだそうです。

進化生物学者である長谷川眞理子氏と、社会心理学者である山岸俊男氏との対談本『きずなと思いやりが日本をダメにする』には、ここ3,40年で、人間の脳は周囲に流されて合理的ではない行動を取るようになっていることが明らかにされてきたと書かれています。長谷川、山岸両先生は、人間は周囲に流されるものであるため、環境が変化し社会変革が必要なとき、個々人に心がけや行動を変えよとお説教しても無駄で、個々人の行動が変わるように制度や仕組みを変えなければダメだとおっしゃっています。

これからの雇用~複業・兼業とワークシェアとを組み合わせる

では若者より高齢者が多く、産業・技術の進歩が速く商品・サービスや企業は短命化するのに個人の寿命は延びる社会に合う雇用システムとはどのようなものなのでしょうか。

一つとの案として「一人で仕事ができる『プロフェッショナル』社員に複業・兼業を認め、同時に、複業・兼業する社員は別の社員と仕事を分け合うワークシェアにより勤務時間を最大半減できる」という雇用形態はどうでしょうか。

経済学者の八代尚宏氏は『働き方の経済学』という著作の中で子育てと仕事の両立を容易化して女性が働きやすい環境を整備する手段としてワークシェアリングを挙げています。八代先生によれば、終身雇用を前提とするこれまでの雇用慣行では、仕事が減っても雇用者を減らせないので、仕事が増えたときは雇用者を増やさずに今いる人に長時間働いてもらえるようにしてきたため、これまでの雇用慣行とワークシェアリングとは相性が悪いそうです。

しかしこれまでの雇用慣行はもはや過去のものとなりつつあります。八代先生もこれからは複業・兼業を容認する必要があり、複業・兼業を行う場合、短時間勤務が主流となるのでワークシェアの必要性は高まると書いておられます。

大企業に長く勤務してきた中高年社員は転職しづらく、首尾よく転職できても新しい環境になじめず転職が失敗に終わりがちなことはよく知られています。40歳以降も安定した変化の少ない環境にいれば脳は老化するため、新たなスキルや価値観を吸収したり新しい環境に適応したりすることが難しいのももっともです。

そこで40歳を超え、賃金上昇が期待できなくなった中高年社員に複業・兼業とワークシェアによる短時間勤務を認めれば、ある程度の収入と地位とを保持した状態で、自分のスキルや経験を活かせる場や学び直しの機会を社外に求めに行く時間を持つことができます。また子育てや介護、病気などのためにフルタイムの勤務が困難な社員は、複業として育児・介護・療養をすると考え、ワークシェアを認める対象を広げれば、育児等による離職防止も図れるでしょう。

長寿化と女性活躍の進展により男女を問わず70歳から75歳まで働くとなると、誰しもがどこかで子育てや介護、自らの病気などによって週40時間以上のフルタイム勤務ができない時期を経験するのではないかと思います。実際、共働きで子育てをしている30代以下の世代を中心に、短時間勤務や在宅勤務などの柔軟な働き方を求める男性も増えています。

「週40時間以上、フルタイムで勤務できなければ、プロの仕事能力を持っていてもそれを活かして働くことができない」社会を、「働く時間や場所に制約があっても、培ったスキルや経験を活かし、磨くこともできる仕事に従事できる」ことが当然の社会に変えていくことは、もはや子育て女性だけの問題ではなくなっています。

昨年末、経団連が複業・兼業を推進しないことを表明し、その理由として複業・兼業することには様々な課題があるためとコメントしていました。私は、変革期にある企業・社会に求められるのは「課題があるからやらない」ではなく、「変革すべき理由や変革するメリットがあるから、変革を成し遂げるための障害となる課題を解決する」ことなのではないかと思います。

経団連は定年延長にも反対していますが、高賃金に見合う仕事能力を持たない高齢社員を強制退職させるために定年制を維持しようとするより、勤務時間と給料を減らす代わりに複業・兼業を認めて中高年社員が社外に活躍の場を見つけようとしたり新たなスキルや価値観を吸収しようとしたりすることを支援するほうが良いのではないでしょうか。

社内しか知らなかった中高年社員ほど社外活動をすると目が開かれるもので、自分が市場価値以上の賃金を得ていることや社外で生きていくためには自発的なスキル開発が必要であることに気付きます。また自分の仕事をシェアする相手との間で業務連携するためには、限られた時間内に自分の仕事を終わらせる時間管理能力、シェア相手との業務調整能力などが求められるので、社内で同じ仕事を続けても新たな能力開発の機会を得ることになります。

特に長年、時間無制限で働くことに慣れた中高年社員にとって、働く時間が制限されることで否応なく生産性向上が意識されます。さらに複業・兼業を認める場合に懸念される情報漏洩についても、ワークシェアの相手により監視されているという抑止力を働かせることができるでしょう。

もちろん年代や性別を問わず「夫(または妻)が稼ぎ妻(または夫)は家庭を守る」ことで時間無制限で働き、家族の分まで稼がなければならない人もいます。そうした人は複業・兼業をしなければ良いだけです。働ける時間が限られる人や社外で活動する時間が欲しい人とそうでない人のどちらも、自らが求める働き方を選択できるよう、選択肢を増やすことが今、求められていると思います。

副業を解禁したロート製薬の人事の方は、「ロート製薬は常識を疑うことを奨励する会社だ。『常識を疑う』というのは常識を単におかしいというのではなく、本筋を考えると今の常識の方がおかしいのではないかと疑うことだ」とおっしゃっていました。

高い経済成長が見込まれ、高齢者より若者が多かったかつての日本で「常識」だった働き方、雇用慣行は、経済成長が安定局面に入り人口が減少する今、そしてこれからの日本で「常識」であり続けるべきなのでしょうか。「一つの企業で週40時間以上、フル回転で働くのが当然で、短時間勤務や在宅勤務、複業・兼業などありえない」と考えているような方にこそ、このコラムを読んで、このコラムに賛成する方、とりわけ妻と同等以上に家事・育児を担っている男性の話をじっくり聞いていただければ、と願っています。

※昨年末より、一般社団法人 プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会関西HUBが活動を開始し、FACEBOOKページを作成しました。FACEBOOKページはこちら