2018年に、働く女性向けの社外メンター紹介サービス「メンターmikke(ミッケ)」をスタートされた、NPO法人アーチ・キャリアの代表理事 井本七瀬さん。今までにありそうで無かった素敵なサービスについて、井本さんにお聞きしました。
(1)サービス開始から1年
「メンターmikke」をスタートされて、1年が経つのですね。
はい。新卒で入社し、12年勤めた会社を昨年退職したのが昨年6月。そして、メンターmikkeをスタートさせて、早いもので1年が経ちます。文字通り「がむしゃら」な1年でしたね。
「メンターmikke」とはどんなサービスなのか教えて下さい。
「メンターmikke」は、働く女性の皆さんに、自社以外の組織で働く女性の社外メンターをご紹介し、マッチングするサービスです。マッチングの後は、3回の面談を実施して頂きます。以前から
「誰もが、社外に気軽に相談できる先輩を持てるようなプラットフォームを作りたい」
という思いがあり、それを実現したのが「メンターmikke」なんです。
営業職や、普段から社外に出る機会の多い役職者といった方のみが社外にネットワークを持てるのではなく、「社外の女性の先輩たちと繋がりたい」と望む誰もが、気軽にメンターと繋ることができる世界を作りたいと。
当初は個人向けにサービスを提供していましたが、次第に企業様からのお問い合わせが増え、現在は法人向けにもサービスを提供するようになりました。
(2)メンターとメンティのマッチング
メンターとはどのような形で面談をするのですか?
メンターとメンティ(メンターの指導や助言を受ける人)は、インターネットツールを使ってオンラインで面談をします。
直接対面しての面談にしなかったのは、場所の制約を無くすことで、「地方で働いている方」「育休中の方」「まだ子どもが小さい方」といった誰もが、メンターと出会って相談ができるようにしたいと思ったから。
また、企業で導入される際にも、「オンラインなので、女性社員さんがどこにいようがサービスを受けられるのがとても良い」という感想を頂いています。
全国に拠点があり、それぞれの支社に女性社員は一人しかいないといった企業が、各支店で働く女性をわざわざ本社に呼び寄せて面談するのは時間的にも費用的にも大変ですが、「メンターmikke」であれば、その必要はありません。
メンターとメンティはどうやってマッチングするのですか?
お申し込みの段階で、事前に情報を細かくお聞きし、その条件に最も合うメンターの方をご紹介します。サイトでお申し込み頂く際に、「年齢」「業種」「相談したい悩み」だけではなく、
「自分と同じ業種で働く人がいい」「中小企業で働く人がいい」「男性が多い職場で、キャリアをつんでる人がいい」」「育児しながら働いている人がいい」
といったご希望もお聞きしているんです。サービスを立ち上げた当初は、今ほど質問項目は多くなかったのですが、改善を重ねているうちに質問が増えてしまいまして…
ある時「申し込みの時点で質問が多いと、申込みするのを面倒くさく感じてしまって良くないですか?」とユーザーの方に聞いてみたところ、
「いえ、逆にここまで理解してマッチングしてもらえるのがいいと思っています。事前に情報を伝えられず、全く状況の違うメンターさんを紹介されるよりよほどいいです」と言って頂き安心しました。
とはいえ、中には記入をあまりされていない方もおられるので、その方には、私が直接電話で情報をお聞きし、その場で「こんなメンターの方がいますよ」とご紹介してマッチングできるようにしています。
「そこまでしてくれるの?」と驚かれることもありますが、今はまだ、お申し込み頂く人数が極端に多くないからできることではありますね。
希望すれば、申込み前の無料相談もあるとか?
はい。「申込みの前に、不明な点を質問したい」という方もおられますので、そういった方には無料相談(あくまでも「サービスに関する質問にお答えする無料相談」であって、メンター面談を無料で体験できるものではなく)を実施し、オンラインで、私から直接サービスの説明を差し上げたり質問にお答えしたりしています。
今後は「興味はあるけれど、申し込むのはまだ悩んでいる、サービスについてもう少し聞きたい」という方に対してのオンライン説明会の定期開催も考えています。
また、サイトにどのようなメンターさんが在籍しているか一覧で見ることができたり、検索したりできるようにしたいと思っています。
(3)サービスを申し込む働く女性たち
申し込みされる働く女性の年齢層、どんな方が多いといった傾向はありますか?
最近は、大きく分けて2パターンかと思うのですが、まずは私と同世代の「両立世代の働く女性たち」ですね。「育休から復帰して1年経った」「育休があける前にメンタリングしたい」といった方が多いです。
もう1つは、両立世代より少し上の中堅キャリア層の40代の方々。子どもの手が離れ、ようやくアクセル全開で仕事に取り組めるようになったけれども、ここからどうしていくべきか…という悩みを持つ方ですね。
「管理職になりたいわけでない。でも、ステップアップはしたい」といったお悩みが多いように思います。もちろん「管理職昇格試験を受けたいけれど、一歩が踏み出せない、リーダーに抜擢されたものの、社内にロールモデルがいない」という方もおられます。
ただ最近は30代前半、20代の若手の方のお申込みも増えてきています。
みんなが悩んでいるのは、やはり自分のこれからのキャリアについて?
そうですね、やはり「今後の自分のキャリア」についてが大半です。「育休復帰後、どのようにキャリアを積み重ねていけばいいか」「上司から管理職登用の話をされたが、話を受けるべきかどうか悩んでいる。かといってやらなければ後悔すると思うので、経験者に相談したい」と。
「そんなこと、社内の人に相談すればいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、「社内でこのような相談をすると、やる気が無いと捉えられそうでなかなか出来ない」といった声も多いです。
またこのサービスをやりはじめて驚いたのが、「意外にも、大手企業に勤めている方からのお申込みが多い」ということです。
「社内に女性社員は多いが、自分も周りも新卒入社で転職経験者がいない。社内の人たちとは異なる感覚の人に相談し、客観的な意見が聞きたい」と。
軽い相談というより、かなり本気の相談が多いのですか?
様々ですね。以前からずっと悩み続けていたけれど誰にも相談できなかったという方が、「メンターmikke」を知って申し込んで下さったり、「社外のメンターに相談するとはどんなものか体験したい」という方もおられます。
また最近では、企業の女性活躍推進プロジェクトのメンバーの方が「自社への導入を検討しているので、まずは自分がどんなものか受けてみたい」というケースもあります。
サービスを立ち上げた当初は、設立メンバーの繋がりからの申込みが大半でしたが、最近は「サイトを見た」「新聞記事を見た」「友人から紹介された」といった形でお申込み頂いています。
少しずつ認知が広がってきているのを感じられて、とても嬉しいです。
ー申し込みされる女性の職種はバラバラなのですか?
はい、本当にバラバラで、中には理系の方もおられます。もちろん、メンターの中にも今現在2名の理系メンターがいますので対応可能です。
(4)メンターについて
面談は、1回で終わってもいいのですか?
1回でのお申込みももちろん可能です。まずは受けてみたいという方やこういうことが知りたいなど目的が明確な方は1回の利用の場合もあります。
ただ、ほとんどの方が3回のオススメプランをご利用されますね。中には3回の面談の後、回数の延長を希望される方もおられます。みんな、安心して悩みを相談できて、アドバイスしてくれる存在が欲しいんだと思います。
「メンターmikke」のメンターにはどんな人が在籍されているのですか?
今現在、メンターは約30人います。ほぼ皆さん管理職ですね。現役会社員で管理職の方がこんなに多く在籍しているのは、日本では「メンターmikke」だけだと思います。
とはいえ私たちは「管理職こそがキャリアの成功」「みんな管理職を目指しましょう」と言いたいわけではもちろんなくて。
管理職の方は部下をお持ちなので、働く女性のキャリアケースをよく知っておられるし、面談スキルもお持ちです。また、立場上、俯瞰視しながら話を聞いたりアドバイスができるという点で、メンターには最適だと考えています。
約30名のメンターの中には「大手企業に勤める方「中小企業・ベンチャー企業に勤める方」「営業職の方」「人事職の方」「男性職場で女性初の管理職になった方」「独身の方」「育児経験者」「シングルマザーの方」「専業主婦経験を経て復帰した方」「執行役員まで登り詰めた方」「夫の海外駐在についていきつつ仕事を続けている方」など、本当に様々です。
そんなにたくさんのバリエーションがあるのはすごいですね…!
メンターのバリエーションは、多ければ多いほうが、よりユーザーの方に対して細やかに対応できます。ですが、相応のスキルや人間性が求めらますので「誰かれどうぞ」というわけにはいかず。
現在は、私がよく知る信頼できる方にのみお願いしています。
とはいえ今後は、メンター育成のためのメンター研修サービスも展開していきたいですね。
メンタリングを学びたい人に受講していただいたり、企業でも「メンターを育てたい」というニーズはありますので、それにお応えしていけたらと思っています。
とはいえ「管理職に面談してもらう」となると、構えてしまうユーザーさんもいませんか?
はい、メンターの中には執行役員の方もおられますので、最初は「叱られたりするのかなぁ?」と不安に思われる方もおられるようです。
でも、「メンターmikke」のメンターは、皆さん等身大なんですね。バリキャリというよりも、自分らしく働いて、肩の力が抜けていて、しなやかな方ばかり。
ですからユーザーの皆さんも、良い意味でのギャップを感じてくださることが多く
「メンターが管理職と聞いてビクビクしていたけれど、まるでご近所さんのように、気さくに話せて良かった!」
と喜んで下さっています。
面談を受けることで、管理職のイメージも変わりそうですね!
まさにそうなんです!先日も『昇格試験の前に、「メンターmikke」のメンタリングを受けたい』という方がおられました。
「上司から登用試験を受けてみなさいと言われたけれど、やれる自信が無い」と。
その後、メンターの方と3回面談をして頂いたところ、管理職のイメージがガラっと変わり「こんなに自然体で、しなやかな管理職になれるなら、私もチャレンジしてみます!」とおっしゃって、その後、登用試験応募したというご連絡を頂きました。
(5)面談について
面談は、いつ行うのですか?
平日の夜、または週末が多いですね。いつ面談日を設定するかについては、申込みの後、直接メンターの方やり取りをして決めて頂きます。間に事務局が入らないので、やりとりはとてもスムーズです。
各回の面談後のフォロー体制も作っておられるとか?
はい。毎回の面談後、ユーザーの方に「メンタリングシート」に気づきを記入して頂き、それをメンターにお送りします。それに対して、メンターが返信を書くのですが、いわゆる交換日記のようなものですね。
このメンタリングシートを読ませて頂くと、感動して涙が出そうになります。3度の面談を経て、ユーザーの方がどんどん変わっていかれる様子を肌で感じ、本当に感激しますね。
どういう気づきを書かれることが多いのですか?
みなさんそれぞれに悩みが違うので、気づきもそれぞれなのですが、一様に「捉え方が前向きに」なられますね。
例えば「以前であれば愚痴っていた場面で、メンターの○○さんだったらどう考えるだろう?と想像して行動するようになった」という方もおられました。
面談を3回する間に、自分をとりまく環境が変わることなんてまずありません。会社の制度も、上司、夫も、変わらない。
でも、起きた物事に対する自分の捉え方が変わると、その後の展開も大きく変わっていきますよね。
またメンターには、強みをフィードバックして頂くようお伝えしています。女性は自信がない人が多いと言いますが、メンターに「そこはあなたの良さだ」と自分では気づかなかった強みをフィードバックしてもらったことで、自分の強みに気づき、自信を取り戻した方もおられます。
社内の人に言われると受け取れなくても、同じことを外部の人に言われると、不思議なもので「私ってそんないいところあったんだ!」と受け取れるものなんです。
▶後編へつづく…(後編も近々掲載予定です。お楽しみに!)
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