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20年後の社会と働き方改革~vol.2「2035年の働き方予測」〜

働く女性の皆さんこんにちは。「転石 ビジネスサークル」代表の小野 曜(よう)です。

2016年に厚生労働省が公開した「働き方の未来2035」(以下、「未来2035」)は約20年後の社会や働き方を予測しています。
この予測について「自分が予想する将来の姿だ」と思う「同意派」もおられれば、「そんな世の中になる?」と今ひとつピンと来ない「懐疑派」や、自分とは関係ないと考える「無関心派」もおられると思います。

私の感覚では、同意派は首都圏や20~30代に多く、55歳以上と関西は懐疑派や無関心派が多いようです。

そこで今回は、30代以下、40代~55歳、55歳以上について世代ごとの特徴と「未来2035」の受け止め方について書いてみたいと思います。

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1 55歳以上~今の社会を握る世代

今、日本社会で実権を握っているのは概ね55歳以上です。

日本企業の社長および役員の平均年齢は約60歳。
働き方を含めた企業の在り方を決めるのはこうした経営層ですから、今の企業を支配している仕組み、常識、価値観は、60歳前後の経営層の方々の価値観に合ったもの、少なくともその影響を受けたものになっています。

ではこの世代はどんな時代を生き、どんな特徴を持つのでしょうか。

2017年の55歳~65歳は、1952年~1962年生まれ。
この年代を含む1950~64年生まれは団塊の世代(1947~49年生まれ)の次の世代ということで「ポスト団塊の世代」と呼ばれたり「シラケ世代」と呼ばれたりします。

この世代については「どんな社会的局面でも、当事者意識がなかったり、当事者になることを嫌い、それぞれの場所で、できるだけお客様的存在でいることを望む」という厳しい見方があります(小此木啓吾氏『モラトリアム人間の時代』)。

もちろんこの世代にも当事者意識を持つ方もいますが、そういう方にはバブル期に新事業にチャレンジし、
そのチャレンジが実を結ぶ前にバブル経済が崩壊し、その結果40代後半以降は会社に居続けても不遇を囲った方も少なくないように思います。

一方、当事者意識が薄く与えられた仕事だけをこなして「余計なチャレンジ」をしなかった方は、成功はしなくても失敗もしません。

この世代は大量採用のバブル世代とベビーブームの団塊の世代に挟まれて比較的同期が少ないため、
これといった成功も失敗もなく会社に居続ければ部長くらいのポストには就けるケースも多く、そうした方の中で役員になった方もおられるのではないかでしょうか。
数が多い団塊の世代とバブル世代に比べれば、この世代はリストラの対象外とされて定年にこぎつけやすく、出世はしなくともおとなしく真面目に働いていれば、いま、会社人生を全うしたか全うしかけている方も多いと思います。
このためこの世代の方々には、終身雇用の崩壊を自分事としては捉えがたい方も多いようです。

またこの世代の方々が価値観や人格が形成される10代後半~20代前半を過ごした時代の日本は、
高度経済成長こそ終わってはいたものの安定成長を続けていました。
そしてこの世代の方々は仕事が面白くなり家庭を持つ20代後半~30代半ばにバブル経済を経験しています。

このためこの世代の方々は経済成長の中で必要な品物を何でも手に入れることができる消費社会の恩恵に浴し、経済成長や消費に好感を持つ傾向もあります。

さらにこの世代は郊外の新興住宅地に住み、帰りが遅く不在状態の父と専業主婦の母と2人前後の子供という核家族世帯で、
家庭と学校とを主な生活場所として育っています。
地域で働く「近所のおじさん」との付き合いが減る中で育った彼らは、地域で様々な職に就く大人たちの社会、地域社会を知ることなくサラリーマンとなり、「サラリーマンになって働くと生き方が王道」と考えがちです 。

そして彼らが子育てを始めた1970年代後半~80年代前半は、男女雇用機会均等法施行前で「男性は仕事、女性は家庭に入って子育て」するのが当たり前の時代です。
自らも専業主婦に育てられ、「いい会社」に入ってサラリーマンとなり経済成長を謳歌した彼らは、自分の子供もまた自分と同じように育ち、生きることがよいと考えます。
彼らが会社で働き子育てをしたこの30年間は、内田樹氏の言葉によれば企業が、「子供たちを『規格化』することを学校教育に強く求めて」きた時代(『リアル30’s』の中でのインタビュー)であり、多くの企業が型破りな学生より「規格」の整った無難な学生を採用してきました。

つまり彼らの生きてきた時代は確かに「真面目に勉強していい学校に入ればいい企業に入れ、いい人生が送れ」たのであり、そうした時代の中で同じ会社で定年まで働き続けてきた彼らにとって、「未来2035」が描く未来像はあまりに彼らの常識とかけ離れ、同意しようがないのも無理ないことだと思います。

2 30代以下~20年後の働き盛り

こうした55歳~65歳の世代とは正反対ともいえる環境を生きてきたのが、社会人として最も若い今の30代以下、
「さとり世代」あるいは「ゆとり世代」と呼ばれる世代です。

1987年以降生まれのこの世代は、物心ついた時から低成長時代を生き、2000年代以降に急増した中高年のリストラ や格差拡大を10代後半~20代前半の青年期に目の当たりにしています。
このため経済成長への期待をほとんど持たず、経済成長を求める企業や資本主義社会を懐疑的で冷ややかに見ています。

とはいえ一つ上の氷河期世代が就職難にあえぎ、正社員というレールから外れると戻るのは容易ではないと知っています。
実際には正社員というレールから外れても戻る人もいれば幸せになる人もいるのですが、この世代は、自分はレールから外れて大丈夫かを見極めるまではレールに乗ったままレールを外れて生きる道を模索する慎重さがあります。

また男女雇用機会均等法が施行された1986年以降に生まれたこの世代は、女性の社会進出が進んで結婚して子供が生まれても働き続ける女性が増える時代に育っています。
このため結婚して子供が生まれた後も女性が働き男性が家事や子育てをすることにも抵抗が少なく、男性が子育てを通じて地域社会で仕事が絡まない人間関係を構築することも珍しくなくなりつつあります。

特にこの世代はSNSを通じて様々な人と交流することに慣れており、東日本大震災などの災害をきっかけに、仕事以外で繋がる仲間や地域とのつながりの大切さを強く意識する傾向があります。

次のページ>>>三番目の世代の特徴は…

3 40代から55歳~大勢を左右する「どっちつかず」の世代

この年代には1965~69年生まれの「バルブ世代」と1970~80年代前半生まれの「氷河期世代」とが含まれます。
長山靖生氏『世代の正体』の記述を借りれば、バブル世代は「世の中は安定成長期に入り、…社会システムは完成され、子供たちにも管理教育の価値観が内面化された。
それは同時に、ドロップアウトすることの恐怖、決められた価値体系以外の有効な選択肢の喪失という事態につながっていく」中で育っています。

社会が安定して社会システムが完成し、決められたレールの上を走る以外の選択肢がなくなっていったのはこの30年の傾向であり、
バブル世代以降の世代は誰も「決められたレールから外れる恐怖」を感じながら育っています。

ただしバブル世代は大学卒業時、難なく「いい会社」に入り、バブル経済の中で高度消費社会を経験しています。
なお高度消費社会については、『世代の正体』の中で「必要な品物がなんでも手に入るようになった『消費社会』を越えて、不必要なものへの購買意欲を駆り立てることで回る社会」と解説されています。

バブル世代は社会人としての駆け出しこそラッキーであったものの、バブル採用後に採用が抑制されたため多年に渡って「職場内最年少」であり続け職能向上の機会に恵まれなかった挙句、中年期に至ってリストラ対象となっています。
しかも消費の蜜の味は忘れられず、決められたレールを外れる恐怖から逃れる術も知らないため、収入が抑えられ不遇を囲って会社を辞めたくとも辞められない人も多い世代であるように見えます。

一方の氷河期世代はバブル世代の就職事情の特異性や甘さに気が付かずに、うっかり「決められたレール」に乗り損ねていたという人が大量に発生した世代です。
氷河期世代の周りでは、「決められたレール」から外れて転落していく人もいれば、決められたレールから外れて「お金で買えない幸せ」「仕事をする喜び」を手にした人もいます。
氷河期世代の周りにいる「決められたレール」から外れた人は、主に学校時代の友人であり、ごく身近な存在です。

氷河期世代はいま、不遇を囲っても消費のための収入を欲しがり「決められたレール」から外れる恐怖から会社を辞められないバブル世代と、「決められたレール」を外れた同世代とを眺めながら自らの道を決める分岐点にいるように感じます。

仕事にありつくチャンスが多い首都圏では「決められたレール」を外れて幸せに生きていけている「普通の人」が身近にいます。
一方、関西では「決められたレール」を外れて楽しげに生きていけるのは特別に元気であったり特別な才能があったりする「普通ではない人」が多いように感じます。

この差が、首都圏では氷河期世代~バブル世代のごく普通のサラリーマンでも決められたレールを外れることを志向する空気を作り、関西では氷河期世代~バブル世代が組織を離れて生きることを志向しない雰囲気を作っているのではないかと思います。

少し話はそれますが、ヒトの腸内には腸内環境をよくする「善玉菌」と、悪くする「悪玉菌」、
どちらでもなく多数派につくという「日和見菌」がいるといわれています。
善玉菌、悪玉菌はそれぞれ2割ずつ、残り6割が日和見菌で善玉菌が増えて3割になると日和見菌が善玉菌について腸内環境はよくなり、悪玉菌が増えて3割になると日和見菌が悪玉菌について腸内環境がよくなるのだそうです。

「働き方の未来2035」に対しては30代以下は東西とも同意派が多く、55歳以上は東西とも懐疑派&無関心派が多い中、40代から55歳は「日和見菌」のように見えます。
首都圏では40代から55歳が同意派になびくため、首都圏での全体的な雰囲気は同意派優勢、関西ではその逆となる、という見立てです。

4 いまの、そしてこれからの新たな社会に対応しよう

毎日新聞社から2012年に出版された『リアル30‘s』という本には「決められたレール」を外れた30歳前後の人が紹介されています。
「いい車に乗りたいとかも思うけど、今の働き方を変えてまで手に入れたいものじゃない」「年収はどんどん下がるだろうし、仕事も減る。だったら、お金で買えていた豊かさや幸せを、地域のつながりや一緒にお茶を飲める場所から得ればいい」という彼らは30代以下の方にとっては遠い存在ではなく、
彼らの言葉に共感する方も多いでしょう。

一方で55歳以上、特に離転職を経験することなく実質的に同じ環境で暮らしてきた方にとっては、この本に登場する方々は「新聞記事になる」くらいに特別で自分とは遠い世界を生きる人に見えるのではないでしょうか。
「決められたレール」を外れてもキラキラと生きる若い世代を遠い存在と思うシニアは、職場と家庭を行き来してそれ以外の世界を知らずに生き、決められたレールを外れて生きる人と出会う機会を持たずにいたにすぎません。

いまの30代以下の方々には、この世代の親に「真面目に勉強していい大学、いい会社に入れば人生は安泰だ」と教えられて育った方も多いと思います。
それはこのシラケ世代の方々が、彼らが生きた時代に適応し成功したからこその「親心」からの教えであり、彼らが自分たちの世界に閉じこもりすぎたがゆえに時代の変化や新しい生き方を身近に見る機会を持たなかったために過ぎません。

『リアル30‘s』に出てくる大阪府の男性は「一生懸命勉強してよい大学に入り、よい企業に就職すれば安定して暮らすことができると教え込まれた。ところが、日本の状況が変わってしまった。」と書いています。

人間は老い、社会は変わる。

日本ではほとんどの人が諸行無常という言葉は知っているのに、この30年間、私たちは人も社会も変化することを忘れてしまっていたのではないでしょうか。
すべては変化するということを忘れていたことは誰の罪でもなく、レールの上を走りそれを勧めるシニアを批判し、世代間で対立することに意味はないでしょう。

生きとし生けるものはすべからく変化に見舞われます。
変化に対応できたものは生き残り、対応できなかったものは衰退します。
そしてその、変化に対応できるかできないかを分けるのは、変化を受け入れて対応しようとするか否かという自らの意思であり、誰かとの競争ではないのです。

※「転石ビジネスサークル」は「転がる石に苔むさず」を語源とし、変化必定の世の中に対応することを終局的目的としています。
直近では2017年2月15日(水)19:00~グランフロント大阪で、例会を開催します。
参加資格は設定していませんので、ご興味ある方はこちらから。
申込時にWoo!を見たと書いていただければ嬉しいです。