働く女性の皆さんこんにちは。「転石 ビジネスサークル」代表の小野 曜(よう)です。 昨年来、話題の働き方改革。政府の肝いり、いわば“トップダウン”で推進されているものの最近はボトム=働く現場での混乱・失敗が記事になることも多く、一筋縄では進んでいないようです。そんな中で、「働くスタンス」の違いと働き方改革の迷走を論じた面白い記事を読みました。いま、企業・社会を動かしているのは仕事一筋に生き成功した「仕事こそ生き甲斐」タイプの人々と目されますが、10年後、20年後には「ワークライフ充実」タイプが台頭し、働き方が変わるのは必然であるようにも思われます。
1 働くスタンスの4類型
私が読んだのは、「『働き方論争』が噛み合わず不毛に終わる理由」と題するダイヤモンドオンライン2017.2.13の記事で著者は秋山さんという男性です。
この記事では、「①仕事に対する充実感」と「②生活における仕事のマインドシェア」の2軸でそれぞれを高低に分けて働くスタンスを4つのタイプに分けています。
各タイプについての説明を読むと、①は、「仕事が好きか」「仕事にやりがいや楽しさを求めるか」の度合いを意味するようです。②は少しわかりにくいのですが、「雇用関係で縛られた仕事(いわゆる本業)に従事しなければならない」という意識の強弱と考えれば良さそうです。 そこで4つのタイプを見ていくと、①も②も高い、つまり、仕事好きで、本業に従事すべしと考えるのが「仕事こそ生き甲斐」群。わかりやすく言えば、家庭そっちのけで1年365日1日24時間を仕事に捧げるタイプです。このタイプは、仕事が趣味で仲間づくりも仕事関係、または仕事のため。喜びや充実感を得るのも仕事の中で休日のゴルフだって仕事仲間や取引先とで何の文句もなし。これに対し、①は高いけれど②は低いのが、「ワークライフ充実」群。このタイプは、仕事にやりがいを感じるけれども、仕事を離れた趣味の活動、仕事と関係ない仲間との付き合いや家庭生活も大切と考えるとされています。 「仕事こそ生き甲斐」群と「ワークライフ充実」群は、ともに①が高く、お金に不自由しなくても仕事がしたいタイプといえるでしょう。
一方、お金があれば仕事はしたくない、仕事に楽しさを求める気はないという、①が低いタイプとされるのが「生活のために働く」群と「少しは仕事もしている」群。 「生活のために働く」群は、本業に従事しなければならないという意識は強いので②は高くなりますが、仕事を楽しいとは感じていません。「少しは仕事もしている」群はお小遣い稼ぎにパートをする主婦のような方々で、この群も仕事に楽しさを求めない、感じません。ただし、本業に縛られるという意識は低いので、②が低いという点では「ワークライフ充実群」と同じ、となります。
2 異なるタイプの「働くスタンス」を体験するということ
この記事では、それぞれのスタンスが別のスタンスの人をどう思っているかが図示され、働き方のスタンスの違いの理解が重要であることが述べられています。そして働き方のスタンスの違いを理解するために、いろいろな働き方を体験することが勧められています。
私は、子供が生まれて「仕事こそ生き甲斐」群のような生活スタイルからワークライフ充実群への宗旨替えを余儀なくされたのですが、異なる働き方を体験するということは、とても刺激的でした。子供が生まれる前、私は同じ職種の社外の人達との勉強会や交流会、残業などで平日、20時前に家に帰ることはほとんどありませんでした。また土日も仕事絡みの活動に参加したり勉強したりで、配偶者と過ごす時間も多くはありませんでしたが、そんな生活を楽しいと感じていました。
けれども子供が生まれてからは、仕事が終われば一目散に帰宅、まっすぐ家に帰らない日は年に2~3日で土日も家にべったりの日々となります。仕事がどれほど好きであろうが楽しかろうが、自ら望んで始めた子育てをするためには子育てに充てる時間が必要であり、仕事に好きなだけ時間を使うわけにはいかないのです。つまり私の場合、自分の愉楽を求めて「雇用関係に基づく本業に縛られたくない」といっているのではなく、雇用関係に基づく本業(ワーク)以外に「人生のタスク」として引き受けたこと(子育て=ライフ)があるという意識ゆえに「ワークライフ」の充実を志向する、というわけです。
こうして私は「仕事こそ生き甲斐」群の生活スタイルをやめたものの、「仕事に対する充実感」は求めます。職場を離れれば頭の中も身体も仕事に充てることはできないという状況で、職場にいる間は、一分でも一秒でも早く求められるアウトプットを出すこと、自分に課された仕事の意義や目的を理解することに集中すれば判断力が鍛えられます。また私は、自分と違う考えややり方が気になる性質でしたが、自分の好みや些末なことを気にしたりこだわったりする余裕がないために多少の違いには目をつぶっているうち、自分と考え方などが違うことを受け入れやすくなり、なんと、自分が穏やかになった(少なくとも以前よりは!)とすら感じました。
仕事と育児の両方を担うことの効用はしばしば語られており、最近目にしたところでは、2017年6月19日付日経新聞朝刊の「ダイバーシティ進化論」と題するコラムでも、3人の子育てをしながら仕事をしてきた女性が、育児経験は、MBAでの学びや勤務経験に匹敵する学びや能力の向上をもたらしたと書いています。
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3 働く女性のワークライフ充実志向~「仕事か家庭か」から「仕事も家庭も」へ~
ところで子供の誕生によって「仕事こそ生き甲斐」的生活スタイルをやめたと書いた私ですが、私はもともと高いキャリア意識を持って働き始めたわけではなく、使命感や熱い思いを持って仕事に邁進し修羅場もくぐってきた本物の「仕事こそ生き甲斐」人間ではありません。
私は、バリバリ働く気もなければ何が何でも就職しなければならないという気持ちもなく、新卒入社できるのは今しかないから、という理由で就職活動をし、大学院卒という経歴と男勝りな性格ゆえに一般職は向かず総合職で採用されたにすぎません。つまり私は「ライフを犠牲にしてまで仕事(ワーク)する覚悟」を固めずに働き始めた人間です。
そんな私でも仕事をしてみると存外に楽しく、また、ムキになる性格でもあったために、子供が生まれるまでは「仕事こそ生き甲斐」群のような生活スタイルになっていただけです。 こんな私と違って正真正銘の「仕事こそ生き甲斐」群の人が、家庭を顧みずに仕事にかまけることをよしと考えなくなった話が書かれているのが、ダイヤモンドオンライン2017.3.7の「『出産後に妻の性格が悪くなった』と感じたらどうすべきか?」という記事です。
この記事を書いた岩崎さんという方は1968年生まれ、いわゆる均等法第1世代後半~2世代として就職されたようです。 ちなみに“均等法世代”は、1986年の男女雇用機会均等法施行を始点としておおよそ10年ごとに第1世代、第2世代、第3世代に分けられることが一般的です。
第1世代は、1986年からバブル崩壊の1992年頃までに就職し、現在55歳前後の方々。第2世代は、均等法施行後10年の1996年~2000年頃までのバブル崩壊後の就職難の中で就職した、現在40代半ば前後の方々。そして第3世代は均等法施行後20年を経過した2006年以降の少子化などに伴う新卒採用数拡大の中で就職した、現在30代前半以下の若手と呼ばれる方々となります。
仕事にかける熱意は上の世代ほど熱く 、第1世代はライフの充実など考える余地なく仕事をしてきた世代です。第2世代はまだ、就職面接で「子育てと両立できますか?」などと聞こうものなら即アウト、「結婚や出産より仕事を優先する」覚悟なくして就職なしの世代ですが、第3世代以降、仕事か私生活かという2者択一は表だっては問われなくなります。 先にご紹介した岩崎氏は均等法第1世代後半~第2世代。「仕事が命」と考えていなければ就職が難しかった時代に就職され、ブラック企業に勤めながらも仕事が楽しくてしょうがないという、筋金入りの「仕事こそ生き甲斐」人間だったそうです。
そんな彼女が出産・育児を経験した結果、講演会などで出会う仕事中毒の男性に「こんな会に来る時間があるなら、家で子供の世話をしたらいいのに」と思うようになったと書かれています。
4 職業人生の長期化~個人も変わる、社会も変わる~
上で書いたのは育児のために働く時間が制限され、ワークライフ充実志向に転じた例ですが、育児に限らず、要介護者や疾病を抱える場合、仕事の他にチャレンジしたいこと(例えば勉強したい)がある場合も、本業に従事しなければならないという考えが薄まりワークライフ充実を志向すると考えられます。
長寿化によって20代前半から40年、場合によっては50年ほどの長期にわたって仕事をするようになれば、多くの人が様々な理由で、雇用関係に縛られた本業だけに四六時中に打ち込むことができなくなり、別の「働くスタンス」を体験することになると思われます。むろんこれまででも「仕事こそ生き甲斐」群だった人が、子供の誕生や親の介護などのために「ワークライフ充実」群を体験していてもおかしくはないのです。
けれども戦後の日本社会は長らく、子育てや介護を配偶者任せにして、疾病を抱えるほど高齢ではない、元気な男性ばかりが働く社会でした。冒頭に掲げた秋山氏の記事の中に、「仕事こそ生き甲斐」群の人は、ワークライフ充実派について、ごくごく稀だけれど「優秀で、『仕事も一流』『趣味の世界でもスゴい』という人もいる」と思っている、との記述があります。
そこには「ライフ」といえば「趣味」であり子育てや介護といった「家庭内労働」は念頭にない、という「仕事こそ生き甲斐」群の「ライフ」観がうまく表現されているようで苦笑いしてしまいました。 あくまでも私見ですが、現在のワークライフ充実群は、共働きで子育てをしている当事者またはその実情を知る30~40代前半の中堅と30代以下の若手に多いように感じます。
前者は、私と同様、雇用関係で縛られる本業とは別の「人生のタスク」を背負うがゆえにワークライフの充実を志向するように感じます。一方、後者では、将来への不安や社会課題に真剣に向き合うがゆえにキャリア開発や社会課題解決を図る活動に参加したいと考える人が多く、バブル期の若者のように遊ぶ時間が欲しいと考える人は少なくとも「ワークライフ充実」群には多くはないように感じます。
1986(昭和61)年の男女雇用機会均等法施行以降、働く女性が増えて共働き世帯も増え続けていますが、共働き世帯が片働き世帯を上回るようになったのは2000(平成13)年以降に過ぎません(図参照)。
つまりいまの40代後半以上の方々にとっては、子育ても介護も配偶者任せにして働く「仕事こそ生き甲斐」という働き方が普通であり、こうした働き方を20年以上続けて成功した方々が今の企業や社会を動かす中心的存在となっています。
とはいえ10年後、20年後には、子育てを妻任せにして四六時中、元気いっぱい仕事をしてきた今の40~50代の方々の中にも、自らの親や配偶者の介護、疾病により「働くスタンス」を変化させざるを得ない必要性に迫られる方々が増えるでしょう。
そのときに企業・社会の主力となっているのはいま30~40代の方々となります。いまの30~40代前半以下の方々の過半は共働き世帯です。 共働き世帯の増加は、「仕事命」であった男性が子育てを担わざるを得なくなった結果、ライフの充実の必要性を知るケースを増加させるでしょう。
また私のように「仕事命」ではなかったけれど働くうちに仕事の面白さに目覚め、仕事もしたいし子育ても大事と思う女性もまた増加させるでしょう。 すでにいま「結婚・出産後も女性が働く」ことを当然視する世代が子育て期に入り、共働き子育て世帯を中心にワークライフの充実を求める声は切実なものとなっています。
一方で今の社会を動かしている40~50代では、「仕事こそ生き甲斐」という働き方を20年以上続けてこられた方も多く、秋山氏が指摘するとおり、働き方や働くスタンスの違いへの相互理解が不足し、働き方改革を迷走させているのでしょう。
働ける時間に制約がある中で成果を出してきた今の40代以下の方々が企業を動かす10年後、時間制限なしに働き続けた人、限られた時間の中で成果を出すことに挑んできた人、どちらが評価されるでしょうか。その答えは、あなたのいま、そしてこれからの働き方を決め、働き方改革の行方を左右するのではないかと思います。
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