働く女性の皆さんこんにちは。今回は、以前Woo!で取材させて頂いた「日本公認会計士協会近畿会 女性会計士委員会」の原繭子さんからご紹介頂き、平岩公認会計士事務所の平岩雅司さんにお話を伺いました。なんと平岩さんは、前職で男性初の育休取得者となられた方なのです。
1 男性の育休取得者は2.65%というのは本当か?
高野:本日は、ご紹介者の原さんも交え、お話を伺いたいと思います。私は2009年以来企業の女性活躍推進サポート事業を行っているのですが、実は男性で育休を取得された方とお会いするのは初めてなんです。
平岩:現在の男性育休取得率は2%程度なので、50人に1人はいるはずですが、僕も「育休をとった男性とは出会ったことがない」と言われることが多いです。よくよく考えると「1日だけ育休を経験してみた」「1週間だけ育休をとった」という短期取得も全てカウントされているので、本当の意味で育休を取得した男性は実際の数値より少ないのだと思います。
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平成25年10月1日から平成26年9月30日までの1年間に配偶者が出産した男性のうち、
平成27年10月1日までに育児休業を開始した者(育児休業の申出をしている者を含む。)の割合は2.65%で、
前回調査(同 2.30%)より 0.35ポイント上昇した
「平成 27 年度雇用均等基本調査」の結果概要 – 厚生労働省
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原:先日30代の男性で育休をとった方とお会いしましたが「会社の制度で5日間だけ…」とおっしゃっていました。私も、男性の育休取得はあまり進んでいないように感じています。
平岩:妻の育児をサポートするために、「妻と同時期に夫が育休を取得する」というパターンも多いようですね。
高野:それも良いかもしれませんが、結局奥さんが育児や家事をメインで行い、旦那さんはただのサポートで終わってしまいそうですね…(笑)
原:そんな中、平岩さんは、当時会社員として働きながら、奥さんと別々の期間に育休をとられています。大変珍しいケースだと思います。
高野:なるほど…それは大変興味深い。平岩さんが育休を取得されたのはいつ頃でしょうか?
平岩:今から約13年前です。当時0歳だった長女が、今では中学生になりました。
高野:13年前というと、女性でも育休を取り仕事復帰する方は少なかったように思います。私が新入社員だった頃は、総合職で入社した女性は、出産後ほぼ全員が退職されていました。そのような中で、育休をあえて取得しようと思われた理由は何だったのですか?
平岩:それがですね…「これだ!」という決定的な理由は、自分でもよく分かりません。あえていうなら「子どもが産まれたことがきっかけで、自然と取得する流れになった」ということでしょうか。
原:私も以前お聞きした際に「決定的な理由が特にない」とおっしゃっていて驚きました(笑)
平岩:僕は妻に対して「働いてほしい」とか「家にいてほしい」などと言ったことはありません。仕事を辞めたければやめればいいし、働きたければ働けばいい。そこは僕がどうこうしろという話ではなく、本人が決めることです。
ただ「もし出産後に妻が働くことになり子守をしてくれる人が見つからなければ、僕が仕事を減らしてもいい」と思っていました。
私たち夫婦は、育児や家事について「これは妻の役目、夫の役目」と決めてしまうのではなく、気づいた方がやればいいという考え方でやってきました。
お互いに「やってよ」と押し付けるのではなく「自主性に任せる」という考え方です。
高野:おぉ…まるで北欧のライフスタイルのようで素敵です…!ただ「気づいた方がやる」と最初は言っていても、結局は妻が家事をすることが多くなり、結果的に役割分担を明確にする夫婦も多いと思うのですが、そうはならなかったのですか?
平岩:役割分担ということで強いて言うなら「今日はどちらが早く帰るか」については決めていました。「今日は僕が早く帰るので、ご飯の準備や家事をしておく。明日は妻が早く帰るから妻の番」という風にです。
とはいえ、急遽打ち合わせや仕事が入り多少遅くなることもあるので、そこは融通をきかせていました。また妻が早く帰った日に出来ていない家事があったとしても、「出来てない!」と指摘するのではなく、僕が気づいたなら僕がやればいいと思っていました。
2 幼児虐待のニュースは他人事ではない
原:平岩さんはご結婚前から家事は一通り自分でできるとおっしゃっていましたが、それは「お母様が仕込まれた(笑)」ということなのでしょうか?
平岩:母から「掃除をしなさい」「手伝いなさい」と言われたことはありませんでしたが、自然と一緒に皿洗いや料理をしていた記憶がありますね。ちなみに、父は家事を一切しない人でした。時代背景的にもそのような家庭が多かったように思います。
高野:では育休取得についてもう少しお聞きしたいのですが、取得する時期についてはどのように決められたのですか?
平岩:育休をどの時期に妻から僕に交代するかは、夫婦で相談しました。妻が産休を取る時期から、子どもを保育園に預ける時期までを考えて「では、子どもを保育園に預ける前の2月頃に、育休を交代しよう」と決めました。
入園する保育園が決まった後、3月末頃に1回30分程度で2~3回慣らし保育のために外出しましたが、僕の育休が始まってからはほぼ家から出られない状態でした。理由は、子どもが哺乳瓶でミルクを飲まなかったのでスプーンであげており、外ではミルクをあげることができませんでしたし、一度にたくさん飲めないのでミルクの間隔が短く回数も多かったからです。結局、育休中には一度も哺乳瓶を使うことはありませんでした。
ただ、妻から僕に育休を交代して少し経ってから保育園生活が始まったので、夫婦で保育園の送り迎えをする新生活には比較的スムーズに対応できたと思います。
1人目の時は2ヶ月間、2人目の時は1ヶ月と少し、育休を取得しました。
高野:実際2ヶ月間育休をとられて、いかがでしたか?育児は良いことばかりではないと思いますし、何より1日中子どもと二人きりという生活は想像以上に大変だと思います。
平岩:非常にキツかったです(笑)社会との断絶感を強く感じました。女性であれば「出産したのでみんなで赤ちゃんを見に行く」と女友達が自宅に来てくれることも多いようですが、男性にはそういった感覚はないので、誰も見に来てくれませんでした(笑)もしかすると「育休では女性より男性のほうが社会からの疎外感を強く感じる」かもしれませんね。
また1日中子どもと二人きりの生活を経験し、「虐待は他人事でない」と思うようになりました。
育休をとる前は、虐待のニュースを見た時「可哀想に…虐待なんて考えられない」と思っていましたが、自分だっていつそうなってもおかしくない、紙一重だと思いました。育児は喜びも大きいですが、それだけではないと痛感しましたね。
原:そうですよね。様々見聞きしてて、育児も、そして介護も、そうだと思います。
高野:よく分かります。私も虐待については他人事ではないと思いました。最後の最後は理性でギリギリ保っているけれど、ブチ切れてしまえば自分も何をするかわからないと…。一方で、育休を取得されて、その後の仕事に活きた事はおありでしたか?
平岩:「時間を守る」ことをより意識するようになりました。夫婦だけの時は「打ち合わせが長引いたので10分遅れる」ということがあっても、ある程度理解しあえていました。でも、保育園のお迎えとなるとそれは通じません。
時間を守ることに対してよりシビアになりましたね。
それ以来、もし自分で調整が出来るのであれば、「時間の読めない仕事は夕方にいれない」といった対策をとるようになりました。
高野:時間に対する価値観は変わりますよね。私も以前よりも時間を大切にするようになりました。
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3 男性が育休をとることへの風当たりは強い?
高野:以前ネットの記事で「男性で育休を取るなんて、おまえは出世を諦めたんだな!と上司に言われた…」という内容のものを見かけました。そこまでではないかもしれませんが、実際はどうなのでしょうか?
平岩:上司も周囲も大人ですから、面と向かってそのようなことは言いませんが「内心は少なからずそう思っているのだろうな」と感じることはありました。また長女が小学校にあがったタイミングで時短勤務をしましたが、その時も「諸手を挙げて大歓迎!」というわけではありませんでした。ただ、それは仕方がない部分もあると思いますね。
原:職業柄、急な仕事に対応しなければならないことも多々あると思うのですが、そういう時はどうされていたのですか?
平岩:急な仕事に対応できないことは多々ありました。上司からみれば「使いにくい部下」だったと思います(笑)当然「急な仕事だっていつでも対応できます!残業も可能です!」という部下のほうが、上司は仕事をふりやすいですよね。そのようなことを表立って言う上司はおられませんでしたが。
高野:独立されたのは、子育てと仕事の両立をよりやりやすくするためだったのですか?
平岩:いえ、そういうわけではありません。公認会計士業界は、独立開業する人が多い業界ではあります。
原:独立されてから、時間の使い方は変わられましたか?組織に勤めている時は、お伺いをたてるべき上司がたくさんおられたと思いますが、そこがなくなり比較的自由にできるのではないでしょうか?
平岩:それが逆で…相手にあわせる頻度が多くなりました(笑)組織にいれば仕事がなくなることはありませんが、独立すれば自分の応対や仕事姿勢が全てですから、可能な限りお客様の予定にあわせていきたいと思って仕事をしています。
4 男性の育休はなぜ増えないのか?
高野:日本で男性の育休取得が増えない原因は何だと思われますか?
平岩:僕は、全員が育休を取るべきだとは思っていません。本人が取りたければ取ればいいし、取らないという選択肢ももちろんあります。ただ、その上で男性の育休取得が増えない原因をあげるならば、
「人事評価や仕事の機会を失うことへの不安」と「当事者意識の欠如」の2点かなと思います。
高野:「人事評価や仕事の機会を失うことへの不安」というと、育休をとることで給与が下がったり、昇格できなくなるということでしょうか?
平岩:はい。「人事評価に悪影響を及ぼしそうだ」という想像が出来てしまうことや、「目立つ仕事や社内で重要とされる仕事に関われなくなり、結果として職場であまり活躍できなくなること」への不安です。また、そのあたりがせめて社内ルールとしてはっきり決まっているならまだしも、そうはなっていないのでさらに不安を抱いてしまいます。
高野:なるほど…では2点目の「当事者意識の欠如」とはどういう意味合いでしょうか?
平岩:当事者意識の欠如とは、「育児は自分や男性がやることではない」と考えてしまっていることです。これは夫婦間での夫や、会社の中の世代間の考え方の違いにも当てはまります。
高野:確かに「育児は女性がするものだ」という感覚は、男女問わず持っている人が多いと思います。私自身もそうですが、「女性側が主体的に育児に関わりすぎる」部分も大いにありますよね。
原:先程平岩さんが「社内ルールとしてはっきり決まっていないことから生じる不安」とおっしゃっていましたが、ルールや評価に対する基準を明確にし、それを社内の全員に分かってもらうことは大切ですよね。その上で、育休をとるかどうかを本人が決められるといいなと思います。
平岩:はい、僕もそう思います。会社によって人事制度は違うので、「育休や時短勤務で給与が下がる」という考え方もあれば「働いた時間ではなく成果を出していれば評価は変わらない」という考え方もあると思います。どちらを選ぶかは、その会社の自由ですし、どちらがいい悪いではありません。
ただ、社内の制度を明示し、みなに周知させることは必要ですよね。
原:一方で「育児をする人だけが優遇されるのか」という意見もあるようです。親の介護をしている人達から見れば「僕たちは親の介護がある中でも必死でやっているのに、育児だけ特別扱いされている…」という声を、以前耳にしたことがあります。
平岩:それはありますよね。また、育休を取る側も会社側への配慮を忘れてはいけないと思います。会社は、社員が育休を取得する間、復職を前提として一時的な人員補充でカバーしたり、仕事の調整をしたりしています。
待機児童の問題でどうしようもない場合は別ですが、自分の都合で「復帰しようと思っていたけどやっぱり辞めた」となれば、会社や同僚はどうしても取得者に振り回されている感覚になります。
高野:そういったケースが続くと、「育休をとられることが迷惑」という雰囲気になり、育休を取って仕事復帰したい人が取りづらくなってしまいますね。
原:育休をとる側も、従業員の立場だけではなく、会社側の都合も考えることが大切ですね。また一方で日本の人事制度は「会社に時間も人生も捧げられる人に適応する制度」という傾向が今も見受けられるので、会社の方針が大きく転換されないと生産性重視で働きたい人が働き続けづらくなっているように思います。いかがでしょうか?
平岩:仕事を疎かにするわけでは決してないけれど、常に仕事が第一優先というわけではない。生きていれば、育児や介護、その他にもプライベートを優先する時期は、必ず出て来ると思います。
高野:様々な人達が働くには、会社の制度や仕組みそのものを変えていかなければなりませんよね。Woo!で取材させて頂いたシナプスイノベーションという会社があるのですが、在宅ワークや有給消化など働き方改革を進めていて、かつ業績をあげておられます。
以前社長にお話をお聞きしたところ「働き方を本気で変えるなら、経営者にビジネスモデルすら変える覚悟が必要だ」とおっしゃっていました。例えば、会社が下請けの場合、元請けから急な依頼が来れば夜中であろうと対応せざるを得ません。いくら残業せず効率良く働きたくても、現実問題として難しい。
そこでシナプスイノベーションは、売上の大半をしめていた下請け業務をやめて、自社が元請けになれる新規事業をスタートさせるという大きな方向転換をすることでその問題から脱却されました。
平岩:なるほど。やはり、会社の仕組みそのものを変えることは必要ですね。
原:8月27日(日)に女性会計士委員会30周年記念講演会で、サイボウズ執行役員の中根弓佳さんをお招きし、セミナーをします。
サイボウズは副業OKの会社ですが、子育ても、介護も、生きがいも、同じ副業という位置付けにしているそうです。
働き方も、仕事に重点を置くのか、ワークライフバランス重視なのか等何パターンかあり、その中から本人が選択する。そして会社もその人の働き方を共有し、仕事の配分や評価に反映させるとおっしゃっていました。
高野:おぉ…!素敵ですね。
平岩:どのような戦略をとるかは企業の自由ですが、成果を出さねば、つまりは業績をあげなければ説得力がうまれず、やり方を真似しようという会社は出てきません。
ですから、高野さんがされているナチュラルリンクのような会社こそ儲けないといけないですよね。
高野:おっしゃるとおりだと思います、頑張ります!
原:今日は新しい発見がありました。このような話は、女性だけで完結させるのではなく、複数の立場から、様々な見解で話し合うことが大切だと改めて感じました。有難うございました。
平岩:有難うございました。