3 男性が育休をとることへの風当たりは強い?
高野:以前ネットの記事で「男性で育休を取るなんて、おまえは出世を諦めたんだな!と上司に言われた…」という内容のものを見かけました。そこまでではないかもしれませんが、実際はどうなのでしょうか?
平岩:上司も周囲も大人ですから、面と向かってそのようなことは言いませんが「内心は少なからずそう思っているのだろうな」と感じることはありました。また長女が小学校にあがったタイミングで時短勤務をしましたが、その時も「諸手を挙げて大歓迎!」というわけではありませんでした。ただ、それは仕方がない部分もあると思いますね。
原:職業柄、急な仕事に対応しなければならないことも多々あると思うのですが、そういう時はどうされていたのですか?
平岩:急な仕事に対応できないことは多々ありました。上司からみれば「使いにくい部下」だったと思います(笑)当然「急な仕事だっていつでも対応できます!残業も可能です!」という部下のほうが、上司は仕事をふりやすいですよね。そのようなことを表立って言う上司はおられませんでしたが。
高野:独立されたのは、子育てと仕事の両立をよりやりやすくするためだったのですか?
平岩:いえ、そういうわけではありません。公認会計士業界は、独立開業する人が多い業界ではあります。
原:独立されてから、時間の使い方は変わられましたか?組織に勤めている時は、お伺いをたてるべき上司がたくさんおられたと思いますが、そこがなくなり比較的自由にできるのではないでしょうか?
平岩:それが逆で…相手にあわせる頻度が多くなりました(笑)組織にいれば仕事がなくなることはありませんが、独立すれば自分の応対や仕事姿勢が全てですから、可能な限りお客様の予定にあわせていきたいと思って仕事をしています。
4 男性の育休はなぜ増えないのか?
高野:日本で男性の育休取得が増えない原因は何だと思われますか?
平岩:僕は、全員が育休を取るべきだとは思っていません。本人が取りたければ取ればいいし、取らないという選択肢ももちろんあります。ただ、その上で男性の育休取得が増えない原因をあげるならば、
「人事評価や仕事の機会を失うことへの不安」と「当事者意識の欠如」の2点かなと思います。
高野:「人事評価や仕事の機会を失うことへの不安」というと、育休をとることで給与が下がったり、昇格できなくなるということでしょうか?
平岩:はい。「人事評価に悪影響を及ぼしそうだ」という想像が出来てしまうことや、「目立つ仕事や社内で重要とされる仕事に関われなくなり、結果として職場であまり活躍できなくなること」への不安です。また、そのあたりがせめて社内ルールとしてはっきり決まっているならまだしも、そうはなっていないのでさらに不安を抱いてしまいます。
高野:なるほど…では2点目の「当事者意識の欠如」とはどういう意味合いでしょうか?
平岩:当事者意識の欠如とは、「育児は自分や男性がやることではない」と考えてしまっていることです。これは夫婦間での夫や、会社の中の世代間の考え方の違いにも当てはまります。
高野:確かに「育児は女性がするものだ」という感覚は、男女問わず持っている人が多いと思います。私自身もそうですが、「女性側が主体的に育児に関わりすぎる」部分も大いにありますよね。
原:先程平岩さんが「社内ルールとしてはっきり決まっていないことから生じる不安」とおっしゃっていましたが、ルールや評価に対する基準を明確にし、それを社内の全員に分かってもらうことは大切ですよね。その上で、育休をとるかどうかを本人が決められるといいなと思います。
平岩:はい、僕もそう思います。会社によって人事制度は違うので、「育休や時短勤務で給与が下がる」という考え方もあれば「働いた時間ではなく成果を出していれば評価は変わらない」という考え方もあると思います。どちらを選ぶかは、その会社の自由ですし、どちらがいい悪いではありません。
ただ、社内の制度を明示し、みなに周知させることは必要ですよね。
原:一方で「育児をする人だけが優遇されるのか」という意見もあるようです。親の介護をしている人達から見れば「僕たちは親の介護がある中でも必死でやっているのに、育児だけ特別扱いされている…」という声を、以前耳にしたことがあります。
平岩:それはありますよね。また、育休を取る側も会社側への配慮を忘れてはいけないと思います。会社は、社員が育休を取得する間、復職を前提として一時的な人員補充でカバーしたり、仕事の調整をしたりしています。
待機児童の問題でどうしようもない場合は別ですが、自分の都合で「復帰しようと思っていたけどやっぱり辞めた」となれば、会社や同僚はどうしても取得者に振り回されている感覚になります。
高野:そういったケースが続くと、「育休をとられることが迷惑」という雰囲気になり、育休を取って仕事復帰したい人が取りづらくなってしまいますね。
原:育休をとる側も、従業員の立場だけではなく、会社側の都合も考えることが大切ですね。また一方で日本の人事制度は「会社に時間も人生も捧げられる人に適応する制度」という傾向が今も見受けられるので、会社の方針が大きく転換されないと生産性重視で働きたい人が働き続けづらくなっているように思います。いかがでしょうか?
平岩:仕事を疎かにするわけでは決してないけれど、常に仕事が第一優先というわけではない。生きていれば、育児や介護、その他にもプライベートを優先する時期は、必ず出て来ると思います。
高野:様々な人達が働くには、会社の制度や仕組みそのものを変えていかなければなりませんよね。Woo!で取材させて頂いたシナプスイノベーションという会社があるのですが、在宅ワークや有給消化など働き方改革を進めていて、かつ業績をあげておられます。
以前社長にお話をお聞きしたところ「働き方を本気で変えるなら、経営者にビジネスモデルすら変える覚悟が必要だ」とおっしゃっていました。例えば、会社が下請けの場合、元請けから急な依頼が来れば夜中であろうと対応せざるを得ません。いくら残業せず効率良く働きたくても、現実問題として難しい。
そこでシナプスイノベーションは、売上の大半をしめていた下請け業務をやめて、自社が元請けになれる新規事業をスタートさせるという大きな方向転換をすることでその問題から脱却されました。
平岩:なるほど。やはり、会社の仕組みそのものを変えることは必要ですね。
原:8月27日(日)に女性会計士委員会30周年記念講演会で、サイボウズ執行役員の中根弓佳さんをお招きし、セミナーをします。
サイボウズは副業OKの会社ですが、子育ても、介護も、生きがいも、同じ副業という位置付けにしているそうです。
働き方も、仕事に重点を置くのか、ワークライフバランス重視なのか等何パターンかあり、その中から本人が選択する。そして会社もその人の働き方を共有し、仕事の配分や評価に反映させるとおっしゃっていました。
高野:おぉ…!素敵ですね。
平岩:どのような戦略をとるかは企業の自由ですが、成果を出さねば、つまりは業績をあげなければ説得力がうまれず、やり方を真似しようという会社は出てきません。
ですから、高野さんがされているナチュラルリンクのような会社こそ儲けないといけないですよね。
高野:おっしゃるとおりだと思います、頑張ります!
原:今日は新しい発見がありました。このような話は、女性だけで完結させるのではなく、複数の立場から、様々な見解で話し合うことが大切だと改めて感じました。有難うございました。
平岩:有難うございました。
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