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多様化する働き方~「複業禁止」でも「仕事と子育ての両立は支援」って、疑問に思いませんか?~

働く女性の皆さんこんにちは。「転石 ビジネスサークル」代表の小野 曜(よう) です。
能力開発を目的として複業に興味を示す人は増えていても多くの企業は複業禁止。そんな「複業禁止」の企業でも仕事と子育ての両立は認めるどころか支援するのが昨今の当たり前です。
しかし仕事をしながら子育てや介護をした人はたいてい、子育てなどより仕事は楽だと感じるものです。子育てという過酷な「複業」はアリで、休もうと思えば休め辞めようと思えば辞められる「(本業と別の)仕事」はダメって、よく考えればおかしいと思いませんか?

1 組織を離れる人々

 

先日、「総合職10年で6割離職の現実、会社のホンネを見限る女性たち」と題する記事を読みました。記事では、採用後10年の総合職の離職率は男性37%に対し女性は58%を超えるという厚生労働省の調査結果が示され、終身雇用が保障され人生を会社に捧げた時代そのままの働き方を変える気はないという企業のホンネを見透かした女性は、できる人から組織を離れていると述べられています。
私も東京で会社員をしていた頃、できる人が組織を離れるようになったと感じていましたが、それは女性に限った話ではありませんでした。「子育てで女性のキャリアは断絶される?と題した以前の記事に書いた通り、東京にいた頃、私は有能かつ人間性豊かな40~50代のミドル・シニアが大手企業や官庁などといった「良い勤め先」を離れて独立自営に走るのを見ていました。

男女を問わず組織を見限る「できる人」たちは、「持てる時間の全てを会社に注ぎ込み、長時間労働も厭わず会社に尽くす」ことを求めながら利用価値が下がれば切り捨てにかかる企業のホンネを見透かして自衛に走っているのではないかと私は思います。

2 複業を嫌がる企業

「会社のいうことを何でも聞いてくれる都合のいい従業員」であることを求めながら、利用価値が下がれば見放す会社というのは、物議を醸しそうな喩えですが「妻を家庭に閉じ込めて自立して生きるために必要な能力開発の機会を奪っておきながら、妻に依存されることが重荷になれば妻を不要とみなす不実な男」のようです。

女性が経済力を持つことが難しかった一昔、二昔前は実際、家庭に閉じ込められて夫に隷属させられてもそれに耐えるほかない女性も少なくはなかったように思います。しかし女性が男性の経済力に依存せずに生きる選択肢が増えたことにより、妻を家庭に閉じ込めておきながら重荷になれば捨てるような男性に従う女性は減っています。同様に、フリーランスや起業や複業といった、働き方の選択肢が増えれば、従業員を社内に囲い込み社外での能力開発の機会を奪いながら、役に立たなくなれば退職させようとするような企業は「できる人」に見限られて当然だと思います。

東京にいた頃、私は社外のイベントやセミナー、3rdプレイスなどで組織を離れるできるミドルに出会うことが多かったと感じていますが、ミドルに限らず「できる」人は社内で調達できない人脈や経験を求め社外活動に参加しています。大手企業の若手社員の集まりであるOne JAPANが夏前に公表したアンケート調査によれば、回答者の7割以上が複業に興味があると答え、複業の目的はスキルアップと答えた人が、収入であると答えた人より多かったそうです。このように「できる人」が社外に能力開発の場を求める傾向が強まり、スキルアップを求める働き手のみならず政府も行政も複業解禁を推進しているにもかかわらず、多くの企業は複業解禁には及び腰というのは多くの人が感じている現状ではないでしょうか。

この記事を書く少し前、複業を公認しているA社で複業解禁を推進した担当者に、別の企業(B社)の方がヒアリングするのに同席させていただいたことがありました。自社でも複業を解禁したいのだけれど実現するのはなかなか難しくて・・・と切り出すB社の方に対し、A社担当者は「そんなに難しい話ではない」「会社の業務時間外に何をしようと本来、自由。それを縛るほうがおかしい」と回答されました。この回答に対しB社の方は「おっしゃる通りです。しかし『複業を認めたら本業が疎かになる』というのが常識というか、一般的な意見で・・・」とおっしゃいました。A社担当者はこのB社の方に「本業だけやっていればいいというのが幻想だ」と返し、続けて次のようにお話されました。

「いままで通りやっていればO.K.という環境であれば本業だけやっていればいいでしょう。しかし、いまは環境の変化に対応することが求められる時代なのです。会社にこもって本業だけやっていては環境変化に対応できない。環境の変化を実感し、変化に対応する知識や術を身につけるため、会社の外に出なければダメでしょう。そして社外で何かをするならば、お金をもらうくらいのことをしないと意味がない」。

傍らで聞いていた私はA社担当者の実に合理的、明快、筋の通った回答に大いに感銘を受けたのですが、複業に眉を顰める企業はまさに「妻を家庭に閉じ込めて自立する能力を奪う夫」のようなものなのではないのでしょうか。

■次のページへ>>>複業禁止の理由に見え隠れする企業の想いとは…

3 複業禁止の理由に納得できますか?

ところでB社の方が「常識」といった「複業を認めたら本業が疎かになる、複業することで心身に疲労をきたす」という複業禁止理由は、一見、従業員への思いやりがあってもっともらしいようにも思えます。ですが、幼子を抱えてフルタイム勤務をしていた私は、仕事しながら子育てするのはO.K.で本業とは別の仕事をするのは「疲れるからダメ」と言われても全く納得できません。

最初に挙げた滝川氏の記事には、乳飲み子を抱えて「子どもを寝かしつけて夜11時に起きて3時間仕事して、泣き出した子どもに授乳してまた仕事に戻り、3時間寝たら朝が来るような毎日」を送った時短勤務の女性の話が紹介されています。時短勤務で午後5時に退社したとして、早くても8時か9時に子供を寝かしつけるまでお茶すらも飲めずに立ち働く、子供が自分で見の回りのことができるようになるまで最短でも7~8年はそんな状態が続く、それが子育てという仕事です。すなわち「仕事と子育ての両立を支援する」ということは、退社してから翌朝出社するまでの間、ともすれば本業以上に負荷が大きい「子育て」という労働をすることは支援しますよ、少なくともそれはいいですよ、といっているということです。

勤務先の仕事(本業)を終えた後の子育てという労働(複業)をするのはいいけれど、自社の仕事以外をするのは「心身の疲労を招き本業に支障を来たす」ため禁止、というのは、子育てのリアルを知らないか、知っているとしたらそれこそ「子育てする人は心身が疲労した状態で勤務する」ことを許容している、つまり、本気で戦力とは考えていない、のどちらかなのだろう、と思うのです。

企業が複業を禁止する別の理由でよく聞くのは「情報漏えいに繋がる」というものです。しかし業務上知り得た重要な情報を漏らすか否かは、本来、複業とは別の問題です。職務を通じて知った価値ある情報を他に漏らすことは、自分のものではない価値物を勝手に第三者に与える犯罪行為だという認識がなければ、複業を禁じていても情報漏えいは起こるのです。すなわち、情報漏えいが起こるか否かは複業を禁止する・しないの問題ではなく、情報という財産の価値、その取扱いについて的確な知識、態度を持たせることができるかどうかの問題です。

このように考えれば、複業を禁じる企業の言い分はその妥当性が大いに疑わしく思えてきます。にもかかわらず複業を敬遠しているというのは、複業を禁止する理屈の妥当性を考えることすらできないほど論理的思考能力が弱いか、まともに考える気がない、そのどちらでもないなら、結局のところ自社の外に出せば「浮気」されると怯えている、つまり自社が真に魅力的な会社だと思ってはいないのではないか。社内で与えられる業務、社内で施される能力開発だけでは不十分だと考えて社外活動を求める働き手が、複業を禁止したがる企業に向けるのはこのような疑惑です。

4 働き手を束縛する企業、安定した環境にこもる働き手

『会社に来なくても良く、仕事はどこでやっても良い』と、成功する人と落ちぶれる人がはっきり別れる」と題する記事には、今後、世の中は、会社に束縛され監視される代わりに給与を保障される「監視付き時間給」と、成果のみで評価される代わりに自由が保障される「自由裁量、成果報酬」のどちらかの働き方になる、と書かれています。この記事には、「(監視付き)時間給」から「自由裁量、成果報酬」に変えた企業で、「30代後半から40代にかけての『実力のない社員』のかなりが給与の大幅減を経験し、逆に20代後半から、30代半ばの「本当に仕事をしていた層」の給与が大幅にアップした」ことが紹介されています。

このように、働く時間や場所を自由に選べる成果給は、自らのスキルを向上や更新することを怠り安定した環境に安住して実力低下を放置する働き手にとっては好ましい仕組みではありません。また勤続(経験)年数と働いた時間で一律に給与を決めてきた企業にとって、個々の従業員が達成すべき「成果」を設定し、その成果の難易度や達成度合いに応じて報酬を決定するのは骨が折れることであり、そんな面倒なことはしたくない、というのが今の多くの企業のホンネであることは想像に難くありません。

しかし「会社に来なくても…」の記事で紹介された企業のように、時間給から成果給へと舵を切った企業はすでに時間無制限で会社に尽くすのは成果で評価されては困る「実力のない社員」であることに気付きはじめています。長時間労働を評価する時間給志向の企業が、この先どの程度「自由裁量、成果報酬」を志向するようになるのか、確たることは誰にも分りません。しかし成果で評価されては困る人が動かす会社を離れ、フリーランスや起業という「自由裁量、成果報酬」へと移行する人々、そうした人々を歓迎する企業が顕在化する中で、時間無制限で自社内にこもる働き手とそれを擁護する企業のいまの蜜月関係がこの先も続くこともまた、誰にも保証できないのです。

私がいま住んでいる大阪は東京(首都圏)に比べ、時間給から成果給へという変化を意識する企業も働き手も少ないと感じています。それは、優秀な人材が潤沢に供給される東京や大手企業に比べて、人材流出に悩む地方や中小企業は「いまある人材」を大切にしているためです。そんな環境は時間無制限で働ける「雇用男性と無業の妻」という伝統的な家庭を守る一方、女性の就業を阻んでもいます。この点については別途、詳述するつもりですが、ITを使いこなしフリーランスや起業、パラレルキャリアを志向する「できる会社員」が組織を離れていく様を東京で見ていた私には、そうした動きに目を背けるかのような大阪は、産業・社会構造の変化に対応できない地方の代表、日本の縮図であるようにも見えます。

そんな大阪で10月27日(金)、「パラキャリ未来会議 in大阪」を開催します。フリーランスを巡る政策、社会の動き、フリーランスという生き方、働き方、会社員のパラキャリ活動や、組織を超えた活動による学習(越境学習)といったテーマについて東京在住の登壇者の生の声を聞く機会となります。ご関心ある方、詳細はこちらをご覧ください。