3 複業禁止の理由に納得できますか?
ところでB社の方が「常識」といった「複業を認めたら本業が疎かになる、複業することで心身に疲労をきたす」という複業禁止理由は、一見、従業員への思いやりがあってもっともらしいようにも思えます。ですが、幼子を抱えてフルタイム勤務をしていた私は、仕事しながら子育てするのはO.K.で本業とは別の仕事をするのは「疲れるからダメ」と言われても全く納得できません。
最初に挙げた滝川氏の記事には、乳飲み子を抱えて「子どもを寝かしつけて夜11時に起きて3時間仕事して、泣き出した子どもに授乳してまた仕事に戻り、3時間寝たら朝が来るような毎日」を送った時短勤務の女性の話が紹介されています。時短勤務で午後5時に退社したとして、早くても8時か9時に子供を寝かしつけるまでお茶すらも飲めずに立ち働く、子供が自分で見の回りのことができるようになるまで最短でも7~8年はそんな状態が続く、それが子育てという仕事です。すなわち「仕事と子育ての両立を支援する」ということは、退社してから翌朝出社するまでの間、ともすれば本業以上に負荷が大きい「子育て」という労働をすることは支援しますよ、少なくともそれはいいですよ、といっているということです。
勤務先の仕事(本業)を終えた後の子育てという労働(複業)をするのはいいけれど、自社の仕事以外をするのは「心身の疲労を招き本業に支障を来たす」ため禁止、というのは、子育てのリアルを知らないか、知っているとしたらそれこそ「子育てする人は心身が疲労した状態で勤務する」ことを許容している、つまり、本気で戦力とは考えていない、のどちらかなのだろう、と思うのです。
企業が複業を禁止する別の理由でよく聞くのは「情報漏えいに繋がる」というものです。しかし業務上知り得た重要な情報を漏らすか否かは、本来、複業とは別の問題です。職務を通じて知った価値ある情報を他に漏らすことは、自分のものではない価値物を勝手に第三者に与える犯罪行為だという認識がなければ、複業を禁じていても情報漏えいは起こるのです。すなわち、情報漏えいが起こるか否かは複業を禁止する・しないの問題ではなく、情報という財産の価値、その取扱いについて的確な知識、態度を持たせることができるかどうかの問題です。
このように考えれば、複業を禁じる企業の言い分はその妥当性が大いに疑わしく思えてきます。にもかかわらず複業を敬遠しているというのは、複業を禁止する理屈の妥当性を考えることすらできないほど論理的思考能力が弱いか、まともに考える気がない、そのどちらでもないなら、結局のところ自社の外に出せば「浮気」されると怯えている、つまり自社が真に魅力的な会社だと思ってはいないのではないか。社内で与えられる業務、社内で施される能力開発だけでは不十分だと考えて社外活動を求める働き手が、複業を禁止したがる企業に向けるのはこのような疑惑です。
4 働き手を束縛する企業、安定した環境にこもる働き手
「『会社に来なくても良く、仕事はどこでやっても良い』と、成功する人と落ちぶれる人がはっきり別れる」と題する記事には、今後、世の中は、会社に束縛され監視される代わりに給与を保障される「監視付き時間給」と、成果のみで評価される代わりに自由が保障される「自由裁量、成果報酬」のどちらかの働き方になる、と書かれています。この記事には、「(監視付き)時間給」から「自由裁量、成果報酬」に変えた企業で、「30代後半から40代にかけての『実力のない社員』のかなりが給与の大幅減を経験し、逆に20代後半から、30代半ばの「本当に仕事をしていた層」の給与が大幅にアップした」ことが紹介されています。
このように、働く時間や場所を自由に選べる成果給は、自らのスキルを向上や更新することを怠り安定した環境に安住して実力低下を放置する働き手にとっては好ましい仕組みではありません。また勤続(経験)年数と働いた時間で一律に給与を決めてきた企業にとって、個々の従業員が達成すべき「成果」を設定し、その成果の難易度や達成度合いに応じて報酬を決定するのは骨が折れることであり、そんな面倒なことはしたくない、というのが今の多くの企業のホンネであることは想像に難くありません。
しかし「会社に来なくても…」の記事で紹介された企業のように、時間給から成果給へと舵を切った企業はすでに時間無制限で会社に尽くすのは成果で評価されては困る「実力のない社員」であることに気付きはじめています。長時間労働を評価する時間給志向の企業が、この先どの程度「自由裁量、成果報酬」を志向するようになるのか、確たることは誰にも分りません。しかし成果で評価されては困る人が動かす会社を離れ、フリーランスや起業という「自由裁量、成果報酬」へと移行する人々、そうした人々を歓迎する企業が顕在化する中で、時間無制限で自社内にこもる働き手とそれを擁護する企業のいまの蜜月関係がこの先も続くこともまた、誰にも保証できないのです。
私がいま住んでいる大阪は東京(首都圏)に比べ、時間給から成果給へという変化を意識する企業も働き手も少ないと感じています。それは、優秀な人材が潤沢に供給される東京や大手企業に比べて、人材流出に悩む地方や中小企業は「いまある人材」を大切にしているためです。そんな環境は時間無制限で働ける「雇用男性と無業の妻」という伝統的な家庭を守る一方、女性の就業を阻んでもいます。この点については別途、詳述するつもりですが、ITを使いこなしフリーランスや起業、パラレルキャリアを志向する「できる会社員」が組織を離れていく様を東京で見ていた私には、そうした動きに目を背けるかのような大阪は、産業・社会構造の変化に対応できない地方の代表、日本の縮図であるようにも見えます。
そんな大阪で10月27日(金)、「パラキャリ未来会議 in大阪」を開催します。フリーランスを巡る政策、社会の動き、フリーランスという生き方、働き方、会社員のパラキャリ活動や、組織を超えた活動による学習(越境学習)といったテーマについて東京在住の登壇者の生の声を聞く機会となります。ご関心ある方、詳細はこちらをご覧ください。
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