子育と弁護士業の両立について
ー高野:全体における女性弁護士の割合は、どれくらいなのでしょうか?
ー八山:2017年現在で18%程度にとどまります。司法制度改革によって司法試験の合格者が増え、若手弁護士の割合が増えました。弁護士全体における女性の割合も以前と比べて微増しているのですが、実は新規登録弁護士における女性の割合は近年減少しているんです。
ー島尾:司法試験合格者における女性の割合は一時期30%近くまで増えたのですが、現在は20%程度です。ですので「女性弁護士がもっと増えるといいね」ということで、11月23日に女子中高生と親御さん対象に「来たれ、リーガル女子!~女性の裁判官・検察官・弁護士の仕事と働き方って どんなんかな~」というシンポジウムを開催しました。
遠くは九州の生徒さんも含め、223名もの方にご参加頂きました。
ー高野:それは素敵なシンポジウムですね!女性弁護士が少ないのは、出産を期に弁護士を辞める方が多いからなのでしょうか?
ー島尾:いえ、出産を期に辞める方は少ないと思います。
ー飯島:私も子育てをしながら弁護士をしてきましたが、仕事自体はやりがいがあるので、「弁護士を辞めたい」とは思いませんでした。ただ、働ける時間が限られることに対するもどかしさとは常に戦っていました。
ー八山:私も、弁護士として働き始めて割と早い段階で出産しましたが、仕事を辞めようと思ったことは一度もありません。ただ、「自分が同期と比べて遅れをとっているのでは」という葛藤があります。スタート地点は同じだったはずなのに、出産や育児で業務量を減らさざるを得ない自分と、そうでない人とでは、経験値に差が生まれてしまうのではと焦りを感じてしまいます。
ー吉田:私も、弁護士の仕事にはやりがいを感じています。ただ、弁護士の仕事は有事対応がメイン。一方で子育ても、急な対応が必要になることも多いので、公私ともに有事対応を迫られるのは大変ですね。
また、家に帰って子どもの世話をしている時に仕事のことが頭を離れないこともあり。どちらも大切なことなので、狭間で葛藤することはあります。
ー室谷:弁護士の仕事はやりがいがあるからこそ、どうしてもワーカホリックになってしまう傾向が高いように思います。盆正月であっても、依頼者から連絡が来れば直ぐに対応するように致します。僕も子どもができる前は、土日も働くことが当然だと思っていました。ボスがそういうマインドである場合が多いですね。
ー飯島:一方で、自分が母親になったからこそ分かることや仕事に活きた部分もたくさんありますよね。離婚事件や、中でも親権の取り合い等、母親である自分が、事務所のどの弁護士よりも適任であるとの自負があります。
ー吉田:私は子育てを通じて、挫折をたくさん味わいました。今までは、自分の努力次第でなんとかなると思っていましたが、子育てはそうはいきません。子育ての中で、悩んだり模索したりしてきたことは、大変良い経験になりました。
ー八山:確かに、子育てをしていると思うようにいかないことばかりで、メンタルが相当鍛えられますよね(笑)またクライアントに「先生もお子さんがおられるのですね」と安心していただけることも多く、クライアントの悩みにも共感して寄り添うことができるので、その点でも仕事にも活きていると思います。
業界の課題と変えるべきこと
ー高野:現在働き方改革に動き出す企業は増えていますが、弁護士事務所でもそのような動きはあるのでしょうか?
ー飯島:一般企業であれば「働き方改革に取り組むことで、残業代も削減されメンタル不調も減って生産性が上がる」といったメリットが分かりやすいと思います。ですが、弁護士の多くは冒頭で申し上げたように社員ではなく個人事業主で、残業代という概念もないので、弁護士事務所での改革の意義やメリットをトップに実感して頂くことが難しいですね。
ー高野:先ほど「弁護士の仕事は有事だ」というお話がありましたが、24時間対応でき土日出勤可能な方が欲しいトップの方は多いでしょうね。
ー八山:長時間労働が当然とされる風潮があることで、育児に積極的に参加したいと思っている男性弁護士も十分にその希望を叶えることが現状難しいという弊害もありますね。男女問わず、育児中の弁護士が各自ワーク・ライフ・バランス向上を模索している状況です。
ー吉田:育休復帰後は、担当案件の分量には配慮して頂いているので大変有難いのですが、長時間働けないことがハンデと感じることもあり、以前のように思う存分働けないことをもどかしく感じます。世の中の変化が激しくなり、法改正も頻繁ですので、弁護士がよりよいリーガルサービスを提供するために、新しい知識を学ぶ時間を確保することが大切だと思います。そのために、普段の業務において、ITをもっと活用し、タスク管理の仕方や担当弁護士間のチームワークを向上させる等して、業務の質や依頼者の満足を保ちつつ、学びの時間を含めた「ライフ」を充実させることが必要だという考えが広がればいいなと思います。そうなれば、育児中や介護中の弁護士の活躍の場ももっと広がると思います。
ー高野:普段の業務の中で、見直せるところは多々ありますよね。IT化でいつでもどこでも仕事が出来るようにしたり、効率化をはかる余地もあるはずですね。
ー島尾:私はどちらかというと、休みをしっかりとって働いてきたほうだと思います。「土日は極力休む。なるべく仕事を持ち帰らない。週末はリフレッシュする。」と決めていました。私が弁護士登録してすぐに就職した事務所も、ボスにメリハリある働き方への理解がありました。
ー高野:やはりどんな組織もトップの方の考え方で決まりますよね。ただ今後は、育児だけではなく介護問題も出てきますので、男女問わず全員が働き方や意識を変えていかなければならないと思います。
ー飯島:そうですよね。実は、弁護士会で、仕事と介護の両立を図るべく、介護施設の選び方等の研修を実施しているのですが、毎回参加者も多く、皆さんの関心は非常に高いです。育児よりも介護のほうが自分事として捉える人が多いですね。このあたりからも、弁護士業界に働きかけをしていきたいと思っています。
ー高野:業界は違っても「意識」「長時間労働」など働く女性が悩むことには共通点が多々あると感じました。私たちの一歩が、周囲を少しずつ変えいきますし、大きく業界に働きかけできる男女共同参画推進本部の役割は大変大きいと思いました。毎週水曜日に、大阪弁護士会館で、女性弁護士による女性のための法律相談も実施されているとのことですので、ぜひ次回は引き続き、そのあたりのお話をお聞かせください。
本日は有難うございました。
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