3 働く女性のワークライフ充実志向~「仕事か家庭か」から「仕事も家庭も」へ~
ところで子供の誕生によって「仕事こそ生き甲斐」的生活スタイルをやめたと書いた私ですが、私はもともと高いキャリア意識を持って働き始めたわけではなく、使命感や熱い思いを持って仕事に邁進し修羅場もくぐってきた本物の「仕事こそ生き甲斐」人間ではありません。
私は、バリバリ働く気もなければ何が何でも就職しなければならないという気持ちもなく、新卒入社できるのは今しかないから、という理由で就職活動をし、大学院卒という経歴と男勝りな性格ゆえに一般職は向かず総合職で採用されたにすぎません。つまり私は「ライフを犠牲にしてまで仕事(ワーク)する覚悟」を固めずに働き始めた人間です。
そんな私でも仕事をしてみると存外に楽しく、また、ムキになる性格でもあったために、子供が生まれるまでは「仕事こそ生き甲斐」群のような生活スタイルになっていただけです。 こんな私と違って正真正銘の「仕事こそ生き甲斐」群の人が、家庭を顧みずに仕事にかまけることをよしと考えなくなった話が書かれているのが、ダイヤモンドオンライン2017.3.7の「『出産後に妻の性格が悪くなった』と感じたらどうすべきか?」という記事です。
この記事を書いた岩崎さんという方は1968年生まれ、いわゆる均等法第1世代後半~2世代として就職されたようです。 ちなみに“均等法世代”は、1986年の男女雇用機会均等法施行を始点としておおよそ10年ごとに第1世代、第2世代、第3世代に分けられることが一般的です。
第1世代は、1986年からバブル崩壊の1992年頃までに就職し、現在55歳前後の方々。第2世代は、均等法施行後10年の1996年~2000年頃までのバブル崩壊後の就職難の中で就職した、現在40代半ば前後の方々。そして第3世代は均等法施行後20年を経過した2006年以降の少子化などに伴う新卒採用数拡大の中で就職した、現在30代前半以下の若手と呼ばれる方々となります。
仕事にかける熱意は上の世代ほど熱く 、第1世代はライフの充実など考える余地なく仕事をしてきた世代です。第2世代はまだ、就職面接で「子育てと両立できますか?」などと聞こうものなら即アウト、「結婚や出産より仕事を優先する」覚悟なくして就職なしの世代ですが、第3世代以降、仕事か私生活かという2者択一は表だっては問われなくなります。 先にご紹介した岩崎氏は均等法第1世代後半~第2世代。「仕事が命」と考えていなければ就職が難しかった時代に就職され、ブラック企業に勤めながらも仕事が楽しくてしょうがないという、筋金入りの「仕事こそ生き甲斐」人間だったそうです。
そんな彼女が出産・育児を経験した結果、講演会などで出会う仕事中毒の男性に「こんな会に来る時間があるなら、家で子供の世話をしたらいいのに」と思うようになったと書かれています。
4 職業人生の長期化~個人も変わる、社会も変わる~
上で書いたのは育児のために働く時間が制限され、ワークライフ充実志向に転じた例ですが、育児に限らず、要介護者や疾病を抱える場合、仕事の他にチャレンジしたいこと(例えば勉強したい)がある場合も、本業に従事しなければならないという考えが薄まりワークライフ充実を志向すると考えられます。
長寿化によって20代前半から40年、場合によっては50年ほどの長期にわたって仕事をするようになれば、多くの人が様々な理由で、雇用関係に縛られた本業だけに四六時中に打ち込むことができなくなり、別の「働くスタンス」を体験することになると思われます。むろんこれまででも「仕事こそ生き甲斐」群だった人が、子供の誕生や親の介護などのために「ワークライフ充実」群を体験していてもおかしくはないのです。
けれども戦後の日本社会は長らく、子育てや介護を配偶者任せにして、疾病を抱えるほど高齢ではない、元気な男性ばかりが働く社会でした。冒頭に掲げた秋山氏の記事の中に、「仕事こそ生き甲斐」群の人は、ワークライフ充実派について、ごくごく稀だけれど「優秀で、『仕事も一流』『趣味の世界でもスゴい』という人もいる」と思っている、との記述があります。
そこには「ライフ」といえば「趣味」であり子育てや介護といった「家庭内労働」は念頭にない、という「仕事こそ生き甲斐」群の「ライフ」観がうまく表現されているようで苦笑いしてしまいました。 あくまでも私見ですが、現在のワークライフ充実群は、共働きで子育てをしている当事者またはその実情を知る30~40代前半の中堅と30代以下の若手に多いように感じます。
前者は、私と同様、雇用関係で縛られる本業とは別の「人生のタスク」を背負うがゆえにワークライフの充実を志向するように感じます。一方、後者では、将来への不安や社会課題に真剣に向き合うがゆえにキャリア開発や社会課題解決を図る活動に参加したいと考える人が多く、バブル期の若者のように遊ぶ時間が欲しいと考える人は少なくとも「ワークライフ充実」群には多くはないように感じます。
1986(昭和61)年の男女雇用機会均等法施行以降、働く女性が増えて共働き世帯も増え続けていますが、共働き世帯が片働き世帯を上回るようになったのは2000(平成13)年以降に過ぎません(図参照)。
つまりいまの40代後半以上の方々にとっては、子育ても介護も配偶者任せにして働く「仕事こそ生き甲斐」という働き方が普通であり、こうした働き方を20年以上続けて成功した方々が今の企業や社会を動かす中心的存在となっています。
とはいえ10年後、20年後には、子育てを妻任せにして四六時中、元気いっぱい仕事をしてきた今の40~50代の方々の中にも、自らの親や配偶者の介護、疾病により「働くスタンス」を変化させざるを得ない必要性に迫られる方々が増えるでしょう。
そのときに企業・社会の主力となっているのはいま30~40代の方々となります。いまの30~40代前半以下の方々の過半は共働き世帯です。 共働き世帯の増加は、「仕事命」であった男性が子育てを担わざるを得なくなった結果、ライフの充実の必要性を知るケースを増加させるでしょう。
また私のように「仕事命」ではなかったけれど働くうちに仕事の面白さに目覚め、仕事もしたいし子育ても大事と思う女性もまた増加させるでしょう。 すでにいま「結婚・出産後も女性が働く」ことを当然視する世代が子育て期に入り、共働き子育て世帯を中心にワークライフの充実を求める声は切実なものとなっています。
一方で今の社会を動かしている40~50代では、「仕事こそ生き甲斐」という働き方を20年以上続けてこられた方も多く、秋山氏が指摘するとおり、働き方や働くスタンスの違いへの相互理解が不足し、働き方改革を迷走させているのでしょう。
働ける時間に制約がある中で成果を出してきた今の40代以下の方々が企業を動かす10年後、時間制限なしに働き続けた人、限られた時間の中で成果を出すことに挑んできた人、どちらが評価されるでしょうか。その答えは、あなたのいま、そしてこれからの働き方を決め、働き方改革の行方を左右するのではないかと思います。
■小野さんのサイト
https://yowono.wixsite.com/thinkdo
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