働く女性の皆さんこんにちは。「転石 ビジネスサークル」代表の小野 曜(よう)
「育児をしない男と父とは呼ばない」という言葉が掲げられたポスターが話題になったのは1999年。当時は「イクメン」という言葉も「ワークライフバランス」という言葉も知られていませんでした。この20年間のそうした変化を考えればいまスタートラインに立ったばかりの「雇用関係に縛られない働き方」も20年後には当たり前になっていても不思議ではないように思います。
1 “ワークライフバランス”が市民権を得るまで①~均等法第1世代と2世代のワークライフバランス
冒頭に掲げた「育児をしない男と父とは呼ばない」というキャッチフレーズは、1999年、厚生労働省が当時の人気歌手・安室奈美恵さんのご主人であったSAMさんを起用して作成したポスターに使われた言葉です。
1999年というのは、1991年のバブル崩壊から10年近く続く経済停滞から脱せず、新卒採用が落ち込み続けた就職氷河期に当たります。
※出典:http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3165.html
男女雇用機会均等法(以下均等法)の施行(1986年)から約10年を経たこの時代に総合職として社会に出た女性は均等法第2世代と呼ばれる方々です。
一方、均等法が施行されて間もない1980年代後半~1990年代半ばに就職した「均等法第1世代」の方々はこの時期、出産・子育て期に入っていました。均等法第1世代の方々の多くは、「初の女性総合職」として期待され、その期待を担いうるだけの、男性に勝るとも劣らぬ頭脳、体力、気力を持つ「特別な女性」といえます。このような均等法第1世代の女性たちは、男性社会の中で男性のように働き、結婚、出産せず、あるいは結婚、出産しても家事、子育てのために仕事ができなくなったといえば、「だから女性は」と言われることを案じ、家事、子育て負担を表に出すことなく乗り越えようとし、また、特別な力を持っているがゆえにそれができてしまう方々でもありました。
この時代はまだ、子育てしながら働く女性は、このように特別に優れた女性や、教師や看護師、保育士など「女性の仕事」と考えられていた一部の専門職に就いている方々に限られていました。それ以外の「普通の」女性は結婚や出産を機に仕事を辞めて家庭に入るのが一般的で、男性の育児休業取得率は0.4%。つまり「家事も子育てもしない男性」と「仕事をしない女性」がまだ一般的であったこの当時、ワークライフバランスという言葉も考え方も世の中に知られてはいませんでした。
厚生労働省のポスターが衝撃的だと話題になったのは、男性は子育てに関わらず仕事をしていればいいという考え方が優勢であったがゆえのことだったのです。
2 “ワークライフバランス”が市民権を得るまで②~均等法第2世代と第3世代のワークライフバランス
こうした世の中の空気感が変わるのが2000年代半ばです。
2000年代半ばは、均等法の施行から約20年、女性労働者を男性と“平等”に扱うよう定めた1997年の改正均等法から約10年が経過し、女性総合職を採用することに対する企業の抵抗感も薄れた時期です。また1991年のバブル崩壊以降、新卒採用を控えてきた企業が、景気回復や従業員の年齢構成のゆがみを是正するため、新卒採用を増やし、2004年を底に新卒の就職率も上昇します。こうして、結婚や出産後も働き続けることを当然とする総合職として採用される女性が増える中、均等法第1世代、第2世代の女性が「仕事と家庭」の両立に苦しむ状況がにわかに注目を集め始めます。
株式会社「ワーク・ライフバランス」という会社をご存知の方も多いかと思いますが、この会社は2007年、小室叔恵さんという方が設立された会社です。小室さんは、2001年に当時勤務されていた資生堂で「WIWIW」という、育休女性の復職を支援するサービスを社内ベンチャーとして立ち上げ、注目を集めました。仕事(ワーク)と子育て(ライフ)の両方を充実させる重要性を説く小室さんはその活動が評価され2004年に日経ウーマン・オブ・ザ・イヤーを受賞されています。そしてワークライフバランスという言葉もまた、小室さんの活躍に伴って急速に広まっていきます。
小室さんは1975年生まれ、1999年に資生堂に就職された「均等法第2世代」で、出産後3週間で職場復帰されたという、いわゆるバリキャリです。均等法第2世代はまだ出産を機に仕事を辞めて家庭に入る女性も多かった世代ですが、小室さんのように男性と肩を並べて働く女性が出産後も仕事を継続した結果、家庭を妻任せにできず「仕事と家庭の両立問題」を自分事として理解する男性が出現します。
ただし2000年代半ばは「仕事と家庭の両立」は、出産後も男性と肩を並べて仕事ができる小室さんのような特別な女性とその配偶者からなる共働き世帯が抱える問題であり、「自分事」としてこの問題に直面する人はまだ少数派でした。
それが2000年代半ば以降、家庭も仕事も男女平等と学校で教わってきた均等法第3世代が社会に出はじめ、折からの新卒採用拡大の中で小室さんのような「特別」ではない普通の女性が結婚後も働くようになり、「仕事と家庭の両立」が自分事の問題となる人が一気に拡大します。
こうしてわずか20年前は耳にすることもなかった「ワークライフバランス」という言葉、概念は今や聞かぬ日はないほどに人口に膾炙しました。振り返れば20年前、「仕事か家庭か」の二者択一が当然だった社会の空気は2000年代前半から少しずつ変わり始め、2000年代後半以降からのこの10年で「仕事か家庭か」という二者択一は表立ったところでは口にされることが憚れるほどに後退しました。
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