Chapter2.これまでの私たち
2-1:文さんの実体験
ー文さんは、起業後大変辛い時期がおありだったと?
文:はい。精神的なショックから、会社に行けなくなった時期がありました。起業してネットショップをはじめて、売上とともにお店や私の露出が増えていった時期でしたが、経営手腕が未熟なまま急成長し、うまく立ち回れなかったことも…。周囲からの批判は前向きに受け入れ「改善してもっと良くなろう!」と頑張っていたのですが、ネット上で誹謗中傷を受け始めるようになりました。今ではこうして明るく話せますが、私が在日コリアンということもあってか、あることないことがネットに書かれるようになり…次第に見知らぬ人までが自分の悪口を言っているように感じて人が怖くなり、苦しくて、ある日を境にプツっと心が折れて出社できなくなりました。
当時は「英語を身につけて海外に住もうか・・・」と思い、実際英会話を習いに行ってまで猛勉強しました(笑)精神的に回復してそれまで通り人に会えるようになるまでは、2年近くかかりました。
木村:その2年は相当長いですよね。
ーその状況から這い上がることが出来たのはなぜ?
文:子ども達のために「このままではダメだ」と思ったからです。将来子どもが大きくなった時に、当時私についてネットに書かれた誹謗中傷を目にして、子どもがショックを受けている姿を想像し、涙が溢れました。私も一緒に経営してきた夫も、後ろめたいことなど一切せず一生懸命頑張ってきた。子供のためにももう一度胸を張って、原点に立ち返ろう、評判を「上書き」できるように頑張ろう!と奮起したんです。
杉浦:素晴らしいですね。大変つらいご経験だったと思いますが、その経験が今の文さんを作ったのですね。
文:はい。今はこの経験があって良かったと、胸をはって言えます。思えば、当時の私のバイオリズムは落ちるところまで落ちていました。その後は「今後もし落ちることがあっても、ここまでなら私は耐えられる」と思うことができ、強くなれた気がします。自分の振れ幅が分かれば、自信になりますよね。以来、私のバイオリズムは緩やかに右肩上がりです。いつかまた落ちるかもしれませんが、経験値の引き出しがあるから大丈夫だと思います。
また、他にも多くのことに気づくことができました。それまでの自分は「私は絶対に傲慢になんてならない」と思っていたのにも関わらず、どこか傲慢でした。この時は本当に倒産寸前でしたが、辛いときにこそ本当に大切なものに気づくことができ、それを超えてようやく経営者の仲間入りが出来た気がします。
2-2:杉浦さんの経験
ー杉浦さんも落ち込む時期はあった?
杉浦:もちろんありますよ。20代の頃は会社で営業として成績を残していましたが、ずっと個人プレーでした。周囲との関係性をあまり重要視することなく1人で走ってきたのですが、30代のある時期、自分の周りには支えてくれる仲間がいないことに気づき愕然としました。そこからは落ち込み、家でじっといることも多かったですが、その期間に多くの本を読みました。その中の1冊が僕が変わるきっかけをくれたんです。
木村:杉浦さんでもそのようなご経験がおありなのですね。その1冊の本には、どのようなことが書かれていたのですか?
杉浦:カーディーラーで働くトップセールスの本で、「自分の気持ちを上げるために、朝会社に行くまでに感動をすることを5個見つけるようにしている」と書かれていました。そうすれば、感動のアンテナが「ポン!」と立って1日が変わると。「本当にそうなんだろうか」と思い早速実践してみたら、1ヶ月で自分の中に大きな変化がありました。
木村:例えばどんなことに感動を見つけていくのでしょうか?
杉浦:例えば…道端の鳩を見て「可愛いな〜こんなところで鳩と出逢えて有難いな〜」とかですね…。鳩に「有難う」と言っていると、鳩も何かを感じるのでしょうか…目があったり、餌もないのにやたらと近寄ってきたりするから不思議です。朝からスーツで鳩に「有難う」なんて、かなり変な人ですけど(笑)
でもそうやって、道端の花が綺麗や、どんな小さなことにでも感動を見つけるようにしていると、朝会社に出社した時に全然気持ちが違ってくることがわかりました。普段は何も思わないような同僚の言動にも「有難い」と心の底から思うことができ、それを実際口に出して伝えることで、部署の雰囲気も変わりました。
文:「有難う」を口にすると、周りにも良い影響が伝染しますよね。私も感動を5個みつける、やってみよう!
木村:「幸せは、なるものではなく、感じるもの」という言葉が確かあったと思います。「幸せになりたい、なりたい」と思うのではなくて、今既にある幸せに気づくことが大事ですよね。
杉浦:「有難う」を100回以上言うと、100回を超えたあたりから涙が出てくるらしいですね。そういえば、剣道の試合だけ「仕合」という漢字を使います。剣道は相手と「シアワセる」ということから幸せの語源になったそうなのですが、人は1人では幸せになれません。周りあってこそだと思います。
2-3:産後うつからの脱却
ー今、2人目出産で「仕事」と「育児」のバランスがうまくとれず産後うつ状態で…
文:今、2人目のお子さんを出産してまだ2,3ヶ月ですよね。一番大変な時期だから、うまくいかなくて当たり前だし、完璧にしようと思いすぎなくていいと思いますよ。というか、その時期に育児も仕事も全部完璧にこなしている人なんて見たことありません。
木村:そうですね。今高野さんは授乳中だから、人生の中で母性が一番溢れ出てる時期。かといって「育児優先だから仕事を頑張ってはいけない」という罪悪感を持つ必要はなく、もっと自由でいいと思います。育児をしながら、仕事がしたいと思えばすればいいですし、仕事をしながら、やっぱり育児がしたいと思えばすればいい。両方ができる環境にいるのだから、それはすごく素敵なことだと思います。
ーわかっちゃいるけど、友人のSNSを見て焦ったりすることはない?…
木村:私は普段facebookはしませんが、非日常のことを投稿している方が多いですよね。一番光り輝くところが切り取られたのがfacebookなので、日常なわけではないと思います。また、投稿を見て心を乱されてしまうなら、しばらくSNSから離れてみるのもありかもしれませんね。
文:私は時々講演の登壇者として呼んで頂くことがありますが、自分以外の登壇者の方のそうそうたる経歴や会社の規模などを見て劣等感を感じてしまうことがあります。「何でこんなすごい人たちの中に、私が呼ばれたのだろう?」と思うことも。そんな時は、あえてこう思い直します。「主催者が私を呼んでくれたのにはきっと意味がある。私にしかできないこと、私の強みがある。みなさん素敵な方には違いないけれど、比べる必要はない」と。すると少し楽な気持ちになり、自信を持って話をすることができます。
また最近は時々両親を講演に呼ぶこともあります。「頑張ってるね」と喜んでくれますし、子どもにとっても母親の頑張りは嬉しいようですね。お母さんが笑顔な家は、きっと家中に笑顔にあふれているはずです。
木村:文さんのお子さんは、もっと大きくなった時に、両親の頑張りを更に実感されることでしょうね。
文:そうであれば嬉しいですね。また、今の日本は大変恵まれています。私はライフワークでカンボジアに行く機会も多いのですが、日本は食べ物に苦労することもなく、環境も整っていて、幸せな国だとその度に痛感します。世界中の数ある国の中で、日本に生まれることができただけでも奇跡。そういえば、日本のベビー用品は質が高くて、海外からわざわざ買いに来るって知ってました?
木村:そうそう。日本で売られている洋服は、一度洗濯しても全く型くずれしないものが多いですが、これは世界基準から考えるとすごいことですよね。
杉浦:そうそう!ユニクロバンザイですよ。
ーなんだか悩んでいた自分が恥ずかしくなってきた…
文:悩んだっていいんですよ。それが自分の足跡になり、周りの働く女性の痛みが分かる人になることができる。私たちも色々乗り越えてきたから、今高野さんに対してそう言ってあげられるんです。そういった意味では、年を重ねることはとても素敵なことだと思います。
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